02



「はぁー、今日もイルムヒルト様は素敵だったわ」


「ほんと、あの公爵令嬢サマの信者だよな、お前」


帰りの馬車で、今日のパーティーで見たイルムヒルト様の装いを反芻して悦に入っていると、正面から呆れた声が返った。


「何よ、ヘンリック。私はイルムヒルト様にお会いするためにパーティーに参加しているんだから、嫌なら付き合わなくていいのよ」


パートナーがいる方が色々と詮索されず都合がいいから、幼馴染みのヘンリックに同伴を頼んだだけだ。招待状は確保しているので一人でも入れなくはない。


阿呆アホか。パートナーなしで行ったら男漁りに来たと思われるぞ」


「私はどう思われても気にしないわ」


脅すように言うヘンリックに、つんと言い返すと、彼は半眼になった。


「イルムヒルト様のご友人がそんな品のない方でいいんですかねー」


「うぐ……っ、今後ともお願いします……」


痛いところを突かれた。まだ婚約者も決まっていない年頃の伯爵令嬢が、単身で上流貴族が参加するパーティーに参加したら、玉の輿狙いの節操なしに映るのは必至。自分はともかく、それでイルムヒルト様の評判を落とすようなことは絶対に避けたい。


「聞こえないなぁ?」


「おーねーがーいーしーまーすぅー!」


「分かればよし」


彼の有り難みを思い知らされた私は、満足げに頭を撫でてくるヘンリックの手を享受した。幼い頃と変わらない少し粗い撫で方は、犬扱いされているようにも思えてしまうが、彼に悪気がないと解っている。


「……けど、私に付き合っていたらヘンリックこそき遅れない?」


「俺よりき遅れそうな奴に心配されなくても大丈夫ですー」


幼馴染みを心配した言葉が、そのままブーメランで自分に返ってきた。確かに有力な侯爵家の跡取りの彼なら、わざわざ探さなくとも向こうから寄ってくるだろう。

私と彼は、父親同士が学生時代からの親友だからと、兄妹のように育ち気安い関係だ。だから、心配をしたというのに。

余計な心配だったと、少し損をした気持ちになった。



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