07.逃げないだけよしとしよう



同盟から一年余りが経過した。つまり、彼女と婚姻してからそれだけ経ったということだ。


「それでやっと告白って遅すぎでしょ」


宰相に呆れたように指摘される。だが、通じただけでも幸運と言えよう。

婚姻での同盟の形を取ったのは、政略的に効率がよかったのもあるが、下心がなかったかと言えば嘘になる。その辺りに彼女が気付いておらず、折に触れて伝えても自分が政治の道具だと信じて疑わなかったのだ。

尊敬の念でしかないと解っていたが、彼女が慕ってくれるのは純粋に嬉しかった。そうして、俺ばかりが想いを募らせていた。

そんな中、戻ってきて以降、実兄と彼女が気安く接しているのを見るのは心中穏やかではなかった。数日会わなかっただけで、挨拶で抱擁するのは止めてほしい。実兄の方は、明らかに解ってやっている。


「……そういえば、貴方もお義兄にい様と呼んだ方がいいんでしょうか?」


「やめてくれ」


そんな倒錯的な趣味はない。実兄を兄と慕うなら弟の自分も同様に呼ぶべきか、との彼女の明後日な気遣いに眩暈を覚える。本当に異性おとこと意識されていない。


「そうですか」


ほっと安堵の吐息と共に彼女の表情が和らぐ。その反応に都合のいい解釈をしてしまう。


「安心したのか?」


「え」


固まられた。

しばらく再起動を待つと、数分後彼女の顔がみるみる赤くなる。何だその堪らなくなる反応は。彼女が実兄の腕の中にいなければ、どんなによかったか。


「っあ、あああの貴方はわ、私の旦那、様……なので、ふ深い意味、は……」


赤面状態で狼狽ろうばいしつつ実兄の後ろに隠れながらしどろもどろに弁明する彼女。


「だそうだよ」


にこやかに遮り役を買って出る実兄が邪魔だ。存在を知っていただけで全く会っていなかった兄だが、女性の好みが似ているのは血の繋がりのせいかもしれない。

婚姻しているのはこちらなのに、実兄の方が彼女と距離が近いのはどういうことだ。

しかし、これ以上追及するのは可哀想に感じるほどに彼女が赤面しているので、壁があってよかったのかもしれない。

俺は諦めて嘆息を零す。


「この後、君と二人で庭園でも、と思っていたが政務に戻るか」


この状態では間々ならないだろう。彼女は実兄に預けて届いた書簡にでも眼を通そう。

踵を返そうとすると、くんと引く力を感じた。

振り向くと、マントの裾を掴む彼女が。


「きゅ、休憩は大事ですからっ」


一生懸命な様子に思わず笑ってしまった。


「では」


彼女が差し出した手を取るまで十数分を要した。


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