08.いい加減キツい



あいつを守るのは俺の役目だと思っていた。

小さい頃から一緒だった大事な幼馴染み。彼女を守るために剣の腕を磨き、ずっと傍にいることが普遍だった。

彼女が笑っていられる日々が続けばいい。

そう思っていた矢先、彼女の父である国王が亡くなった。

棺の前で泣き崩れる彼女に、公の場で胸を貸してやれない騎士の立場を悔しく思った。

後で涙を拭ってやろうと思っていたが、彼女はぴたりと泣きやんだ。そして、敵国との同盟を唐突に宣言し、鬼気迫る勢いで敵国にほぼ単身で乗り込んだ。

今までにない彼女の豹変ぶりに驚いたのは、一番近くにいた俺だ。

だが、敵国の王に対面する直前、彼女の手がカタカタと震えていることに気付いた。

そうだ。こいつはそんな強い奴じゃない。


「おい、大丈夫か……?」


無理をするな、と声をかけると、こちらを振り向かず前を向いたまま彼女は答えた。


「大丈夫じゃなくてもやらないといけないの。私の肩には今、国民の命が乗っているんだから」


そこには、幼馴染ではなく王女がいた。

俺の知っているあいつは、城の外のことなど何も知らずに無垢に笑っている少女だ。こんな、重いものを必死で背負っているような奴じゃない。

武力ばかりを鍛えた俺には手伝ってやれないところで、一人踏ん張って立っている。どうしようもなさに、拳を握る力が強まった。

敵国の王がやってくると、開口一番に土下座をして同盟を願い出た。


「わ、わかったから、顔を上げろ!」


彼女の覚悟に俺が驚いている間に、敵国の王が焦りながらも是と了承し、再確認した彼女が


「よかったぁ……」


と葬儀後初めての笑顔を見せた。

その安堵した表情に、彼女が頼れる相手は俺じゃないと思い知った。

彼女は逃げないことを選んだのだ。なら、せめて護衛騎士として傍で見守ろう。

そう覚悟を決めて一年が経ち、国は平和と呼べる状態になった。


「世継ぎにも協力的だった君とは思えないな」


「あああれは、役目だと思って割り切れたから……っ」


「君は役目なら何でもできるんだな」


「そ、それはっ」


そう、こんな会話が目の前で繰り広げられる程には。

赤面する彼女は口をはくはくとさせて言葉を彷徨わせる。しばらくして、夫の服の裾を摘まみ弱ったように見上げた。


「……だ、誰でもいい訳じゃない、です」


堪えるように元敵国の王こと彼女の夫が手で顔を覆った。

気分を害したと勘違いした彼女がおろおろと慌てだし、俺にまで相談してくる。

止めてくれ、転職したくなるから。


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