06.その笑顔は狡いです



同盟が結ばれて一年、経過は順調だ。

隠れキャラの兄が自ら出てきてくれたおかげで空いた玉座も埋まり、諸侯の説得の間も城内の人事整備も平行でできた。

内通者は、今は彼の腹心として宰相を務めている。自分の前では軽口だが有能らしい。まだ姫さん呼びで認められていないので、それを止めさせるのが目下の目標だ。

といっても、政治に関して見習いも同然なのは確かなのでお茶汲みから頑張っている。

メイドに太鼓判をもらえるまで練習してから、彼にお茶を持っていくようになった。

彼には自分が淹れたい、と頼んだせいか、メイドには愛ですね、と微笑ましい眼差しを向けられた。でも、それは違う。

諸侯の説得ができて少し余裕ができたためか、徐々に罪悪感が増すばかりだ。適材適所だったとは思うが、自分が背負うべきものを彼に押し付けたのも事実で申し訳なくなる。

しかも、政略とはいえ使えない自分を妻に据えさせてしまったのだ。彼は優しいので、そんなことはない、と言ってくれるがそれに甘えてはいけない。彼のためにできることなら何でもやりたい。

お茶を持っていくと、柔らかい笑顔で迎えてくれた。その笑顔に、自分の方が和んでしまう。

徐に彼が正式な夫婦になりたいと希望したので、世継ぎのことかと返したら、彼は机に頭を打ち付けた。

驚いて心配すると、大丈夫だ、と額を押さえながら返事が返った。


「そ、それは追々……、いや、できれば好いた相手としたい」


彼の訂正を聞き、早とちりをしてしまった自分が恥ずかしくなる。


「あ、そう、ですよね。失礼しました! どなたか意中の方がいるなら、私のことはどうかお気になさらず!!」


どうせ張りぼてですから、と明るく笑ったつもりだったが、思ったより自嘲の色が滲んでいた。

解っていたことではないか。王族の血など引いていないと、前世の記憶が戻った時に知り、政治的価値がまるでないと理解していた。彼が本来の血筋を隠しておきたいと言うから、自分がフェイクの王族でいるだけだ。

尊敬する彼が望む女性ならば、正室だろうと好きに据えるといい。

彼は自分の前に来ると跪いて手を取った。


「君だ」


「え」


「俺は君が好きだ」


思考が一時停止した。

どれぐらい時間が経ったか、理解して動揺する。全身が熱い。


「迷惑だろうか……?」


眉を下げた彼に訊かれて、思わずぶんぶんと首を横に振った。


「そうか」


やっと通じた、と彼が破顔する。

それを目の当たりにして、私は本当に張りぼてと化した。


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