第30話 そして落ちてきた四天王
大空よ、成層圏まで張り裂けろ。
『超蒸気圧充填完了。物理攻撃力に熱エネルギーを追加』
「グレイトフル・スチームパンク・スーパー・カナタ・パンチ!」
かなりの深度で空を割る轟音と熱を帯びたスチームな拳がほとばしる。非常に非情な俺のヒロイック・パンチはいつだってどんな敵をも一撃で沈める。
しかしこいつは違った。俺のスーパースチームを真正面から拳で受けて、同レベルのパワーとヒーロースキルで打ち消しやがった。俺がそうするように、やっぱりブラックカナタは常に全力のようだな。
俺が放った力はこいつの腕に弾かれて空気中に拡散していった。俺とブラックカナタの間に渦巻いていた空気が一瞬で消し飛び、薄くなった気圧が雲を呼んだ。希薄した空間に周囲の空気が一気に流れ込み、その幕のような雲も一瞬で霧散する。俺の拳とこいつの拳と、どちらも砕けることなくぶつかったままだった。
そしてブラックカナタのターン。
「タイムレス・ダブル・フリッカー・ヘビー・ブロー!」
俺たちは時空を超える。簡単に時間差なく同時攻撃ができる。身体を大きく振るって腰溜めにした豪腕を右から、時間を巻き戻して同一時刻にもう一発、左から。
二人に見えるほどに時間差もなく、ブラックカナタの右腕と左腕がパワー全開で俺を挟み込む。ブラックカナタ同様、俺ももちろん物理ダメージは無効だ。そんなのはブラックカナタだって理解している。
これはボディを破壊する攻撃じゃない。ハートを打ち砕くアタックだ。へこんでしまった闘う心はそう簡単には癒せやしない。殴る殴られる以前に敗北が決まってしまう。
右からのブラックカナタ・パンチ、左からのブラック・スチーム・パンチ。俺はあえて自分の両腕をクロスさせて、右の拳でこいつの右のパンチを、左の拳で左のパンチをぶつけて受け止めてやった。
ダメージはないが、衝撃は地震のように襲ってきた。筋肉を震わせて、骨まで痺れるパワーが俺の中を通って地面に抜ける。草原の草が散り散りに弾け飛び、土がえぐれてひび割れる。
「効かねえよ」
「知ってるさ」
ブラックカナタがフッと笑う。俺もそれに応えてやる。
「いちいち技の名前を叫ぶのがいいよな」
「ヒーローとして最低限のマナーだからな」
お互いに一撃でケリがつくはずの渾身の攻撃が無効だった。それは決してどちらかが弱いとか、そして偽物だとかいう低次元の話じゃない。俺たちは、俺自身だという証だ。
「今の一撃で理解したよ。おまえは、ブラックカナタはどうやら俺自身のようだ」
「やっぱり俺だな。どんな相手でも本気の全力、一撃撃破。合格だ」
ブラックカナタがファイティングポーズを解いた。合格だ、だと? なんだよ、その上から目線は。
「合格って、気に入らない言い方だな。まるでブラックの方が格上みたいじゃないか」
「時系列的に上だろ。おまえはまだキッククロウブーツを持ってないからな」
ガチガチとメタリックな蹴爪を鳴らすブラックカナタ。草をむしり、地面に食い込む強そうなブーツだ。確かに、まだ俺がどこの異世界でも見たことのない装備だ。
「それどこで手に入れたんだ? 俺も欲しい」
「自分で探せ」
「くれ」
「自分でなんとかしろって」
なんとかしろって言われてもな。重力編集マントはグラヴィティワールドでなんとかできたが、それはどこの異世界産だよ。
「いいから。くれよ」
「その強引なとこもやっぱり俺自身だな」
「俺なら俺に装備を貸してくれたっていいだろう」
「って、こんなこと話してる場合じゃなかった。もうすぐ……」
そうブラックカナタが言いかけた瞬間、空に亀裂が走ったように鋭い光が落っこちてきた。空に線を引くように煙を吐き出して人間くらいの大きさの火球は城壁の向こう側、城下町の方へ猛スピードで落下していく。
「おい、あれ何だ?」
「やばいな。もう来やがったか」
ブラックカナタが空を仰いで飛び行く火球を目で追いながら言った。
「もう? どういうことだ?」
「時間軸がずれたのか? 時系バランスが乱れてきてる」
「ラライラも言ってたな。時系バランスって何だよ」
「説明してる暇はない。行くぞ、正統系カナタ」
ブラックカナタが黒マントを翻して宙に浮く。火球はもう今にも城下町に直撃しそうだ。
「行くって、わけわかんねえよ」
「ヒーローはいつだって緊急出動だ。いいから着いてこい、勇者カナタ。召喚モンスター四天王の登場だ」
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