第31話 世界は変化に満ち満ちている。例えばパラレルとか。
四天王戦と聞いて熱くならないヒーローはいるか? いや、いない!
「おいっ、四天王って言ったか?」
召喚モンスター四天王だなんて、いよいよクライマックス感があがってきたな。
「説明は後だって言ったんだ!」
ブラックカナタはマジな顔してずばり言い切りやがった。
「この世界線は早過ぎる。やっぱり時系バランスが乱れたんだ。あれが落ちたら街は壊滅する」
「この世界線?」
「そして四分の一の確率でイングリットさんも巻き込まれて死ぬ。それですべて終わりだ」
街めがけて禍々しい光を放って落下する火球を睨みつける。あれが落ちれば、四分の一の確率、25%でイングリットさんも死ぬだと? 確かに、呑気に作戦会議してる場合じゃないか。
だからと言って、これですべて終わりじゃあない。ここに俺がいる。この状況に打ち勝つにはそれで十分だ。
「そうか。ならば、俺がやる」
『荷重力偏移能力発動。ハイパースローモード移行』
ヴァーチャライザーをぎらりと黒光りさせて、俺は重力と時間の作用を吹っ飛ばして四次元的に最速のスピードで火球へ向かって飛んだ。
風景が溶けるように後ろに吹っ飛んで消える。先に飛んだブラックカナタを追い越して、空気さえ白く波打つ速度で空間移動し、一瞬で火球の落下予測点の城下町まで戻ってきた。
見上げれば、まだまだゆっくりと落ちてくる燃え盛る火球。荷重力操作射程範囲まではまだ遠いか。
「さっきこの世界線って言ったか?」
ブラックカナタが俺の最速のスピードにようやく追いついてきた。どこか余裕のある顔して火球を見上げて答える。
「ああ。意味がわかるか?」
「おまえの世界のイングリットさんは、死んだのか?」
イエローのパンクヘアを決めたイングリットさんの困ったような笑顔を思い出してしまう。城下町に残っててよかった。あの時あのまま街を離れていたら、この隕石落下攻撃すら知らないで終わっていたかもしれない。
「正確に言うと少し意味が異なるが、いわゆる魔王軍の召喚攻撃で12回、この国は滅ぼされている」
「12回も? その世界線の俺は何やってたんだ?」
「すべてのタナカカナタが最強勇者カナタになれたわけじゃない。ただの異世界タナカで終わった奴らもいれば、俺のようにパラレル・タナカ・ワールドを構築できたカナタもいるわけだ」
「パラレルタナカか」
「またの名を異世界を股にかける旅人カナタだ」
「それにしても情けねえタナカもいたわけか」
「ああ、おまえはどうなんだ?」
「俺? 当然、世界最強最高勇者カナタだ」
「そうか。おまえにイングリットさんが救えるか?」
「勇者カナタがやらなきゃ誰がやるんだ?」
「無論、パラレルカナタである俺だ」
ブラックカナタは俺より一歩上に飛び出て空中で静止して言った。俺たちの頭上には今にも落下しつつある火球。足下には大勢の人が生きる城下町。
「そのために俺が来た。おまえが失敗した時に、パラレル・タナカ・ワールドの俺が街を守る」
「俺は失敗しない。何故なら、絶対に最強だからだ」
『超蒸気圧充填完了』
「そこをどけ」
右腕の圧縮蒸気砲が熱く唸る。目の前まで迫った火球はそこまででかいわけじゃない。人間一人よりちょっと大きいくらいだ。俺なら一発で破壊できる。
「やってみろ」
ブラックカナタは俺のちょっと下に構えて立ち、俺と同じ圧縮蒸気砲に蒸気を充填させる。だがな、おまえの出番はないぞ。こんな隕石まがいの小さい石ころ、俺一人で十分だ。
この炎に包まれた隕石は音よりも速いのか、もはや眼前に迫っているってのにほとんど無音で落っこちてきている。かすかにハム音のような高周波のノイズを感じるだけだ。
「タイムレス・ダブル・フリッカー・カナタズ・ヘビー・ブロー」
俺は静かに技名をささやいた。
「そして、グレイトフル・スチームパンク・スーパー・カナタ・パンチ」
ヴァーチャライザーのウィスパーボイスのような俺のささやき声をぐっと熱い拳に握り込む。
空を見上げる。真っ黒く燃える焔の塊はもう目と鼻の先にあった。
「メテオ・ブラスト・アイアン・アナーキー!」
一瞬で世界が色彩を手放した。ハイパースローモードが発動すると、俺が高速過ぎて光は遅くなり、色味の波長が追いつかずに鈍く彩りを失ってしまう。
まずは重たい右の一撃。落下運動が止まった隕石に大きく身体を捻った右フックをめり込ませてやる。間髪置かずに左の鋭い一発を刺す。1ミリ秒の誤差もなく叩き込んだ二発のブローで隕石が大きくひび割れる。
そのひびの真芯に、寸分の時間差もなく楔を打ち込むような渾身の圧縮蒸気砲だ。鋼鉄の拳が超圧力によって最大の暴力を発揮する。
「砕けろ!」
俺のアイアン・アナーキーによって隕石は四つの破片に砕け散った、かに見えた。爆発音とともに爆散すぐ四つの破片がぐるりと回転して、落下速度を消滅させて中空に止まり、アルマジロが防御姿勢を解くようにして人の形になった。そのヒトガタの数は四つ。隕石の火球は燃え盛る四体のヒトガタに変身しやがった。
「召喚モンスター四天王の一人、メテオマンだ」
ブラックパラレルカナタが言った。そんな大事なことは先に言えよな、おい。
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