第26話 それ、俺も欲しいな。どこで売ってたの?
重力に逆らうように不自然に翻り漆黒を見せつけるブラックカナタ・マント。猛禽類の脚を彷彿とさせる金属音を奏でる蹴爪のブラックカナタ・ブーツ。ああ、なんてかっこいいヒーロー・ガジェットなんだろうか。
ブラックカナタは異常偏移を起こした重力場を自在に飛んで迫ってきた。ただの重力操作だけではそんな自由飛行はできない。間違いなく、わざとらしく演出めいてひらめくあの漆黒マントの特殊効果だろうな。俺も欲しくなってしまうだろうが。どうしてくれる。
ブラックカナタが直接殴れる距離まで俺に接敵すると、両脚の金属光沢のある蹴爪がくわっと開かれた。そしてまるで自らの意思を持つように鋭く動き、俺の右腕の圧縮蒸気砲と左肩に食らいついた。うわ、かっこいい攻撃スタイルだ。俺も欲しい。でも、他人の物を羨ましそうに欲しがっては特撮ヒーローの名が廃る。強い心、発動せよ。よそはよそ、うちはうちだ。
圧縮蒸気砲が火花を散らし、左肩は軋んで骨が悲鳴をあげる。物理ダメージ無効化スキルがさらにレベルアップしたおかげで全然痛くはないが、蹴爪ブーツはものすごい力で俺を空へと持って行こうとする。させるかよ。俺のターンだ。俺の中心に重力を起こして逆におまえを引きずり込んでやる。
『アンチグラヴィティエリア凝縮。超重力発生』
『ベクトル変動能力発動。対重力無効化スキルレベルアップ』
俺とブラックカナタ、二人のヴァーチャライザーがウィスパーボイスで囁き合う。
ベクトル変動能力ってのは聞いたことないスキルだ。そして対重力スキルがレベルアップしたってことは、まずいな。対重力戦に関してはブラックカナタの方が俺より強いかもしれない。俺の重力がかかる方向が捻じ曲げられる。ブラックカナタの思うままに荷重力偏移できるってわけだ。
「やるじゃないか」
と、俺。
「さあ、どうする?」
と、ブラックカナタ。
こいつの特撮ヒーロー装備の方が一枚上手で、そしてブラックカナタは俺がどう戦うかわかってそれに対応して攻撃パターンを変えてやがる。ブラックだなんてただの俺のコピーだと思っていたが、劣化コピーどころじゃない。まるで俺の上位種だ。こいつ、まじで何者なんだ!
俺のへその辺り、身体の重心に置いたはずの重力溜まりがベクトルを変えたのがわかる。どしっとした重みの中心が持ち上がり、へそから胸へ、そのまま喉を通って頭の天辺まで持っていかれる。
「自分より強い相手と戦うのはこれが初めてだろ?」
ブラックカナタが俺の頭上で俺を見下ろしながら言う。でもそれは決して舐めた調子ではなく、師匠が弟子に諭すような穏やかな口調だった。
「ああ、勉強になるぜ。その装備、どこで手に入れた?」
「それくらい自分で考えるんだな」
確かに。ブラックカナタの言う通り、自分で何とかしよう。俺は左手首のスマホホルダーをこいつに向けて、素早く一枚写真を撮った。
「ほう、研究熱心だな」
「偽物ごときに負けてられないからな。すぐにおまえを越えてみせる」
ブラックカナタの漆黒マントがさらに不自然に翻る。すっかり重力バランスが狂ってしまった俺の身体は抵抗もむなしくあっさり浮き上がってしまった。ブラックカナタは蹴爪ブーツで俺を掴み上げ、漆黒マントを中心にしてぐるぐる高速回転を始めた。
「これ以上ここで戦ったら街に被害が出る。場所を変えようぜ」
まるで空中でハンマー投げをするように、ブラックカナタは俺の身体をぶんぶん振り回してぐんぐん加速させて、えいやっとばかりに投げ飛ばした。街の外まで投げっぱなされる勢いでぶっ飛ぶ俺。空と雲と街の景色がぐるぐる回りながら吹き飛んでいく。
オーケイ、ヴァーチャライザー。ガチでやり合おうって言うなら、とことんやってやろうじゃないか。でもその前に、ちょっと寄り道だ。
カモン、16トンコンボイトラック! やっぱり俺も空飛ぶマントが欲しいし、異世界転移だ。
ぐるぐる回る異世界の空で、はるか彼方より暴走してくる大型トラックが見えた。
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