第25話 勇者カナタ VS ブラックカナタ
ほんと、奇妙なものだ。カラーリングが多少違ってる自分自身とのバトルだなんて。眠い目をこじ開けられて悪い夢を見させられる、そんなもどかしい気持ちでいっぱいになってしまう。
『荷重力変動検知。物理ダメージ9.8倍』
2Pカラーのブラックカナタが重力を操作しやがった。ヴァーチャライザーがそれを教えてくれる。物理ダメージおよそ10倍か。思い切ったコマンド選択してくれる。しかし、そうこなければダメだ。勇者カナタはいつだってガチなんだ。
ブラックカナタが勢いよく跳んだ。あり得ない上昇力からの鋭い角度での急降下。そう来るなら、俺はこう動く。重力操作には時間操作で対抗だ。
『時間操作能力発動。ハイパースローモード移行』
戦う相手は自分自身だ。その戦闘センス、攻撃リズム、思考パターンと手に取るようにわかる。いや、手に取るまでもなくわかり過ぎるって具合だ。
ハイパースローモードに突入して、俺はほぼ静止したブラックカナタの蹴爪ブーツキック攻撃をゆっくりと回避しつつこいつの背後に回り込む。ブラックカナタは飛び蹴りの姿勢を崩さずに、目だけ動かして俺の動きを追った。ほらな。ハイパースローモードにもちゃんと対応して時間停止空間でも俺を見続けている。
ハイパースローモード解除。時間が再生される。ブラックカナタのスカイハイ・キックは誰もいない空間を斬り裂いて石畳を深くえぐった。砂埃が爆発するその瞬間、すでに俺はブラックカナタの背後を取っている。その無防備な背中をカナタ・パンチで一撃で粉砕、か?
いいや、無理だ。こいつはほぼ静止した時間の中で俺が動いて背後に回ったのをしっかり見届けていた。どんな攻撃も無効化されるだろうな。それに背後から一撃食らわすってのも、いかに偽物ヒーローが相手だろうと正義のヒーローがすることじゃない。そして面倒なことに、俺自身であるブラックカナタもそれをよくわかっているようだ。
ブラックカナタは慌てる様子も見せずにゆっくりと立ち上がり、こっちに振り返らずに黒いヴァーチャライザーで時間操作してえぐれた石畳の道路をきれいに修復した。ちょうど俺もそうしようと思ってたんだ。やっぱりこいつは俺だ。ただ外見や能力をコピーしただけの異世界モンスターじゃない。
「ちゃんと道を直すなんていい心掛けだな」
「そりゃあな。道に穴が空いたら普通埋めるもんだろ?」
ブラックカナタは俺の声で、俺と同じ口調で軽く喋ってくれる。たぶん俺もそう答えるだろう。やっぱりこいつは俺自身だ。
「じゃあ、次は俺のターンだ」
『荷重力偏移能力発動。圧縮蒸気砲装填完了』
行くぜ。あえて真正面から。正々堂々必殺技名を叫びながら。
「グレイトフル・スチームパンク・カナタ・パンチッ!」
超重力の加速度に乗せて、ファンタジーワールド最強生物レッドドラゴンさえも一撃で地面にめり込ませる強パンチでブラックカナタのリアクションを見てやる。
圧縮蒸気砲が汽笛のような鋭い音を奏でて、吹き出す真っ白い蒸気を纏いながら、ブラックカナタへ俺の全力の右腕が唸り上げる。
「グレイトフル・スチームパンク・カナタ・パンチッ!」
まるでシンクロさせるかのようにブラックカナタも俺と同じ必殺技名を叫んだ。
すぐさま奴の右の剛腕がぶっ飛んで来る。蒸気と蒸気が折り重なり、圧力と圧力が真正面から衝突する。
「うおおっ!」
俺たちは同時に叫んだ。同じ能力、同じ技、同じパワー。鏡に映したみたいに同じ攻撃力の一撃はきれいに反発して、パワー1ミリも残さずそのまま反射して返ってきた。
ものすごい勢いで後方へ吹き飛ばされる俺とブラックカナタ。お互い反対方向に弾かれて、メインストリートに立ち並ぶ店に突っ込んで、身体で入口ドアも商品棚も壁を突き破り、店舗を貫通してさらにその向こう側の通りにまで転がっていく。
『物理ダメージ無効化スキルレベルアップ』
おうおう、無効化スキルがレベルアップしてしまうほどの一撃とは。やるじゃないか。さすがは俺だ。
ばきばきと、元店舗の壁だった瓦礫を撒き散らして立ち上がる。あ、店壊しちゃってごめんなさい。
俺は店に空いた大穴を通って向こう側、メインストリートのバトルフィールドまで戻った。同時に時間操作して破壊された店舗を修復する。めきめきと、木材が折れ直る音が響いて店は見る見る間に立ち直っていく。
同様にブラックカナタがぶっ壊した向かい側の店も時間修理される。やっぱり考えることやること同じだ。
いやいや、そういえば俺と奴とで違うポイントがあるじゃないか。
『重力場偏移検知、アンチグラヴィティエリア拡大』
ブラックカナタはまた重力操作をした。ぶわり、漆黒のマントを翻し、黒ブーツに生えた蹴爪をがちりと言わせて、ブラックカナタは宙を舞った。
あいつは俺がまだ開発していない異世界アイテムを装備している。どこで手に入れやがったんだ?
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