第17話 異世界より舞い降りたアストラル・ナイトストーカー


 今まで俺が倒してきた召喚された異世界モンスターで、人の形をした奴らはいても意思の疎通がはかれた者はいなかった。しかし今日ここでコミュニケーションが取れる奴が現れた。ついにこの日がやってきたか。


「言葉がわかるのか?」


 俺以外の異世界転移経験者と一度ゆっくり話してみたかったんだ。おまえ、どんな世界からやってきたんだ? 転移する時って、やっぱり異世界酔いするか?


「おまえだよ、おまえ。話せるのか?」


 ムンクの叫びはちらっと自分の後ろを見た。そして誰もいないのを確認すると、そうっとこっちに向き直り自分を指差してくりっと首を傾げた。


「そう。おまえだよ」


 ムンクの叫びはやっぱり驚いたように顔を伸ばして大口を震わせた。ひょっとして見えていない設定であれだけ堂々と師団長に取り憑いていたのか?


 きっちり3秒間俺と睨み合い、ムンクの叫びは師団長の背後に隠れようと身を縮めた。


「いや遅えし」


 しかも隠れ切れてねえし。顔が長い分だけ師団長の頭からはみ出てるし。下手な心霊写真みたいになってる。


「俺と話す気がないなら、いいぜ、やりあおうじゃないか」


 ヴァーチャライザー・オン。右腕に装備した圧縮蒸気砲が戦闘態勢に変形してぷしーっと細く蒸気を吹き上げる。


「待て待て」


 言葉を発したのは師団長の方だった。ムンクの叫びにこそこそ耳打ちされて無表情のままだらだらと棒読み。


「勇者タナカよ。アストラル生命体であるこのワタシの姿が見えるとは驚きだ」


「いやいやもう本体で喋れよ。コミュ障か」


 圧縮蒸気砲、蒸気装填。わざとガシャコンって大きな音を立ててやる。


「待て待て待て。わかった。こいつを精神操作するのはやめてやる」


 師団長の身の安全は別にどうでもいいが、ムンクの叫びは師団長の背後からするっと離れた。あらためて全身像を見てやると、影の足元が透けて消えているのでゴースト系モンスター感のあるムンクの叫びってとこだ。全身を現そうが結局ムンクの叫びであることには変わりないが。


「オマエが勇者タナカか」


「いや、違う」


「えっ?」


 ムンクの叫びがまた挙動不審に叫んだ。面白い奴だな、こいつ。


「俺は勇者カナタだ。タナカではない」


「ほとんど変わらないじゃないか」


「いいや、全然違う。名前はとても大事なんだ。大事だから聞こう。おまえの名前は?」


 己の誇り高き名を訊ねられてムンクの叫びは我に返ったか、大口を閉じ、胸を張り、目を細めて名乗りを上げた。


「ワタシは異世界より舞い降りたアストラル・ナイトストーカー。ワタシの名はディムィトゥル・ペルツォーフカ」


「でいむ、えっ?」


「ディムィトゥル・ぺルツォーフカ」


 発音がめんどくさそうだな。もうムンクでいいか。


「そうか。ではさらに聞こう。異世界のナイトストーカーよ。俺が異世界の勇者カナタだが、何か用か?」


「勇者カナタ。おまえに恨みはないが、これも仕事でね。おまえの命を貰い受ける」


 あ。こいつは。俺は理解してしまった。


 こいつは俺と同じ匂いがする。

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