第10話 超大型には超大型なりの超大型な悩みがある
勇者カナタ、忌まわしい姿の巨人を一撃で屠る。空より舞い降りる天使の翼を持った勇者。その右腕は鬼神の如し。ってはならなかった。
「あれ?」
巨人がクレーターの中に崩れ落ちる地鳴りのような重低音が静まり返ってもなお、師団兵のみんなは茫然自失としていた。
みんなどうかしたか? いつもならここで勇者カナタの活躍をみんなで拍手喝采の大騒ぎなはずじゃないか。何をそんなぼーっとしちゃってるんだ。
「おい」
潰れてへこんだ巨人から外壁の上に飛び上がって、砲兵たちにさりげなく拍手を要求してみる。
ぐっと親指を立ててイイねポーズをして、まだ蒸気をシューって放っている右腕の圧縮蒸気砲を肩に担ぐように掲げてやる。
「……巨人だ」
バカみたいに大口を開けていた砲兵の一人がぼそっとつぶやく。おい、巨人ならそこでへこんでるだろ。この勇者カナタがへこませたんだ。さあ、褒め讃えるんだ。
「おい、タナカ。あれを見ろ」
「カナタだ。いいか、カ、ナ、タ。リピートアフターミー?」
「うるせえ、タナカ」
ぽかーんと口を開け放っていた兵士の一人が俺を見ながらよたよたと後退った。見れば、砲兵の奴らも大砲の持ち場を離れて後退しつつある。
俺がどうかしたか? いや、違うか。俺の後ろだ。勇者カナタの背後に、まだ何かいるのか? そういえばイングリットさんが言ってたな。もう一匹分の召喚予兆があるって。
念のため、そうっと振り返ってみる。
「お、おう」
思わず変な声が漏れた。
俺がつい今しがた潰した巨人ならまだそこにへこんでいる。問題はその巨人じゃない。ずっと遠くにいる巨人だった。やっともう一体の巨人が現れやがった。
「ずいぶん、でかいじゃねえか」
新しい巨人はまだはるか遠くに突っ立っている。それでも、十分接近しているかのように大きく見えた。倒した巨人の十倍はでかい。
森と山に挟まれた大街道の向こう側、全身に蹴爪が生えたような人型の岩山がのっしのっしと歩いていやがった。バカでかい。あり得ないくらいにでかい。こんなでかい生き物がいる異世界もあるのか。まだ俺も知らない異世界は多そうだな。
いま倒した巨人がまるで子供サイズだ。あのでかい奴は数キロ先にいるがその立ち姿がはっきり見えるくらいでかい。全長は100メートル以上ありそうだ。
「ああ、そうか。こいつは仔巨人ってわけか。親巨人の登場か」
通りで攻撃が幼稚だと思ったよ。まだ子供だったのか。悪いことしたな。でも、弱肉強食の異世界バトルだ。情けは無用。俺が戦わなければイングリットさんが、その他防衛師団のみんなも首都の住人もやられてしまうんだ。
まさに俺がやらなきゃ誰がやる状態だ。
「いいぜ。ガチで戦おうか」
岩の親巨人が吠えた。大きな岩石が擦れ合うような音が波のように空気を歪ませて迫ってくる。今まで戦い倒してきた異世界モンスターとはレベルが違う威圧感だ。
親巨人がその巨体の形を変えた。膝がぐいと前にせり出し、岩が組み直されるように太ももが太く膨らむ。全部の歯が奥歯みたいな顎を突き出して前傾姿勢になり、かかとがふくらはぎまで引っ張り上げられた。
突然土煙を上げて親巨人は駆け出した。
速い!
ついさっきまでののしのし歩いてた姿とはまったく違う形。速く移動するために変身しやがったな。
「なら、俺も変身するしかねえな」
草木を蹴散らし地面をえぐり、猛スピードで駆けてくる身長100メートルオーバーの親巨人を倒すため、ヴァーチャライザー・オン!
「来いよ、16トンコンボイ!」
今回のVR16トンコンボイは俺の背後からやってきた。ヘッドライトの眩しい光とともに金属の獣が俺を跳ね飛ばす!
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