5
翌日、外の小雨の音で目を覚ました。
リビングに降りると、制服姿の凛がバターロールを頬張っていた。ソファにあぐらをかいて座り、いつつけたのかTVを見ている。
「ああ、起きたなら早く食べて」
キッチンから母さんが顔をのぞかせる。ソファの前のローテーブルに目をやると、二つ三つ食器が並んでいた。いつものトーストにプロセスチーズ二切れとスープ缶と、僕と凛がそろって嫌いなサニーレタスの入ったサラダだ。
「あ、おふぁおう。ふぇいふふぇ」
「なんて?」
凛はトーストを口に突っ込んでいた。頬がごみ袋のように膨らんでいる。
「ちゃんと、のどに流し込んでから喋れよ」
そう言って、凛の斜め上―――テレビがよく見える位置に腰を下ろした。ちょうどエンタメコーナーに切り替わったようで、画面にはキンプリの平野が映っていた。
「あ、ジャニーズだ」
ふと凛がつぶやく。
「人気なんだ?」
僕が問うと、凛は「そりゃそうだよ」と返す。
「かっこいいもん。友達がファンって子多いし」
確かに、画面の向こうのアイドルは格好いい。歌もできるし、演技もできて、トークも上手いし、カンゼンムケツだ。周りにいるような同級生とは、雲泥の差なんだろう。
食べ進めていると、画面はある国会議員を映していた。
『今年八月、議員事務所内で、女性事務にわいせつな行為をした問題で〇〇党を離党し、無所属となっていた××議員が議員辞職を表明しました………』
アナウンサーが淡々と話す。
「なんでこんなことするかなあ」と凛。
僕は何もしゃべらないから、単なる独り言になった。映像はスタジオから移る。映っていたのは議員事務所らしき小さな建物と、女性リポーター。
『××議員の事務所前に来ております。××議員はこの事務所内にあるトイレ内でわいせつな行為を――』
突然画面が切り替わる。凛がチャンネルを変えたのだった。
当たり前だ。こんなニュース見ても何の得にもならないし、だいいちこんなこと知ってどうする。
* *
「お前、聞いた?」
学校に到着し、ウィンドブレーカーを脱いでいると、鍋島に話しかけられた。
「何が」
「ニュースだよニュース、知らねえの。牧中の男子生徒が万引きしたらしいんだよ。新聞に載ってたぞ」
“牧中”といえば、市街の方にある牧岡中のことだ。ここから三キロぐらいしか離れていない。
「それにさ、その万引きしたやつ俺らと同じ学年らしいのよ。ヤバくね?」
「あとそいつの家に昨日警察が来てさ、連行されていったらしいよ」
「ええ、私、牧中に幼馴染いるんだけど」
次から次へと僕の周りにクラスメイトが寄ってくる。男子も女子もみんな。
全部、初耳だ。
同じ市内の中学生が捕まったことも、僕と同い年だということも、そいつが万引きをしたことも……。
なんだか居心地が悪くなって、僕はいったん教室から出た。このまま朝読書の時間まで話を聞くのも選択肢の一つだったけれど、なんかイヤだった。
特に行く先も無く、男子トイレの方へ足を向ける。すると、
「「うわあああっ」」
朱音がいた。気まずい。
14の戦争 麦直香 @naohero
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