あの日からずっと、何度でも恋に落ちて 〜王太子の秘めた花〜
やまの紅
序章
第1話 プロローグ
初めてそれを経験したのは、八歳の時。
口うるさい教育係から逃れて、お気にいりの本を手にクッションや
ブランケットの間に潜りこんでいた僕は、ページをパラパラめくっているうちにいつしか眠りに落ちていた。
意識が薄れていくとともに、横になっている自分の身体からするりと
意識がぬけだして、窓を通り抜け空中に浮かび上がり、あっという間に、
遥かな高みからモルビッツ城を見下ろしていた。
赤褐色の木組みとレンガ、そして白の漆喰が美しいモルビッツ城。
そしてその周りに広がる森と湖、長くのびる石畳 “ 君主の道 “ の先にある
王都モルのカラフルな街並み……
見下ろしている景色はすべてが素晴らしく、心が震えた。
でも目覚めた時、自分は本を握りしめ、汗まみれになってブランケット
にくるまっていて、
” ああ、全部、夢だったんだ “ とそのときは思った。
それきりそのことを思い出すことはなかったが、十二の歳、
一人で避暑地のザントスから帰る道で馬車の中で眠ってしまった僕は、
もう一度、あの不思議な体験をした。
走る馬車と並行して、鳥のように飛ぶ僕。
飛びながら横をむけば、ぐっすりと眠っている自分が馬車の窓に見えた。
目が覚めて考えた事は、どうやらこれは “ 夢とはちょっと違う” ……
ということ。
それから僕は注意深く、自分のたてた仮説が真実なのか何度も
自分の身体をつかって試し、そして確信した。
ー ー 僕は幽体離脱できる 。
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