死が転がる季節

 冬は、一番死人が多い季節。彼に伝えた言葉に間違いはない。

 でも、それだけが真実だなんて一言も言っていない。夏。夏はね、死がそこらじゅうに落っこちてるのに、誰も彼も見向きもしないんだよ。干上がったミミズに、轢かれて潰れた蛙、暑さに勝てなかった虫達に、除草剤に殺された草。目を凝らせば見えてくる。でも、人間にとってはたいしたことじゃない。人間じゃなきゃ、死んだって、誰の目にも触れない。産まれたことも、生きたことも、死んだことにも気付かれず、存在だけが存在しているような。

 そんな健気で、愛しく、愛されるべき愚か者達の死が転がる季節。彼らの死が気付かれないのは、夏が暑いから。暑い中くっつくのはあらゆる意味でバカだけだ。見知った相手でも隣にいなくちゃどうしてるか分からない。

 私と君は、冬だけの恋人。でも、君が、そんなふうに笑うから、そんな、嬉しそうに私の名前を呼ぶから、私たちも正真正銘のバカになってもいいのかな、なんて。今年の夏は海に行ってみようかな、なんて。少しだけ思ってしまった。ずっと被っていた仮面を少しだけずらして、そうして見えた景色は、なんだか少し、汚かった。

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