第5章

持ってきた茶色の味気ない封筒から君の写真を取り出してみる。家をでる直前に思いついて、君との思い出の写真をこの封筒に何枚か入れて手で持って来た。くじ引きをするようにその中に指を二本入れて一枚取り出す。よりによって君と僕と彼女が天蓋の前で微笑んでいる写真が出てくる。これも運命なのだろうか。

天蓋は僕が今いる部屋、つまり僕と君のアトリエに君が連れてきた。就職する意思を伝えたクリスマス・イヴとクリスマスがバトンタッチする頃だった。もう六年も前のことだ。そのとき僕は先輩に頼まれた映像に字幕をつけるアルバイトをしていた。クリスマスや年末の誰かと過ごさなければ寂しい人間と言われているような雰囲気が苦手で少しゲンナリしていたと思う。そんな僕とは正反対にやけに上機嫌で帰って来た君は、僕の肩の上に跨って、立て!若者!と叫んだ。相当な量の酒を飲んだらしく、身体があらゆる方向に揺れていた。作業をしている僕への遠慮はもちろん無い。少し不機嫌な僕には御構い無しに、もう一度、立ち上がれ!若者よ!と叫ぶ。仕方なしに君を肩に乗せてゆっくりと立ち上がる。あまりの軽さに驚いてバランスを崩しかけたがなんとか持ち堪える。骨のような君は僕に身を任せて、天に近づく。いつの間にか手に持っていたトンカチを使って君は天井に釘を打ち付ける。僕にしゃがむように指示して一度床に降りると、廊下から得意げに天蓋を持ってくる。ひとしきり見せびらかしてからまた僕に跨る。君が上に登っていく。少し手こずりながら天井に突き刺された釘に天蓋の紐をくくりつける。天蓋の外に出て具合を確認すると、布が長すぎて床にべったりと付いている。君はハサミを机の引き出しから取り出して、とても神経質に床に付かない長さに調整した。床から解放された天蓋を手で少し押してみると自由に踊る。それはとても気持ちが良さそうで、音楽をかけて僕らも踊る。君は何かが物足りないと怒り、以前撮影に使った安っぽい光を放つ電飾を引っ張り出してくる。また僕の肩にまたがって、てっぺんから螺旋状に巻きつける。コンセントにプラグを差し込むと、ハートの形をしたそれはピンクと水色に光る。安っぽい光だ。気を利かせて電気を消してみると電飾だけが静かに光を放つ。その光景は錆びれたラブホテルのようで悪くなかった。僕たちは天蓋の中に入る。白いレースの布と貧しい光が僕たちを囲む。狭い空間を言い訳にして僕たちは抱きしめ合った。心臓が荒々しく動き出したことを悟られないように、大きな声で歌った。ふざけたふりをして君を抱き上げる。やはり軽い。身体中に骨の感触を感じながら、君を強く抱きしめる。音楽は止まらない。君の少し半開きになった唇を指でなぞる。焦点の定まらない目で君が僕を見つめる。君の目蓋を親指で静かに撫でる。君が目を閉じる。目を取り出す代わりに僕は唇を重ねる。そっと唇を離すと、君の方から僕の唇を求めてくる。そんなことをされたら、僕はめちゃくちゃになってしまう。理性を失った僕たちはいつまでも唇を重ねた。

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