エヒカ ―弔歌の子―

 桟橋舞台の上で誇らしそうに、マヒカが歌っている。

 わたしは人々の間をすり抜けていく。


 そんな歌では何にもならない。

 いもしない龍神イズラに捧げる歌など。


 の血潮がもたらす雨の果てる時まで見守った。

 もはや雨は尽きた。

 再び大地は乾き雲は去りひでりが襲うだろう。


 雨は降らない。

 次の弔い歌が歌われるまで。

 次のわたしイェールカが現れるまで。


 恨みと悲しみ、孤独に満ち、自らを弔うものが現れるまでは。



 わたしは桟橋舞台に上がる。恵みの家から持ってきた短剣を振り上げる。

 妹マヒカが歌いながら驚きの表情を見せる。

 いつかわたしがされたように、わたしはマヒカを刺し殺す。

 この妹の血ではあがなえぬ。


 さあ、来い。

 現れよ。

 我々が去ったのち、灼かれて乾いたこの土地に、やがて新たなイェールカわたしが現れ、命奪われ、自らを弔うだろう。

 その血潮から赤い天魚が湧き出し人々の飢えを満たすだろう。


 そして神なき世に、偽りの神話は生まれ続ける。




――見ていろ、龍神イズラ、人なき世では誰も神をあがめない。



――わたしは、神話おまえを弔って死ぬ。



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