イェールカ ―雨花娘―
あらゆる祈りを歌のかたちで捧げるこの国で、歌の上手な者というのはそのまま天の力に近い者だ。中でも雨を呼ぶのは娘の歌声と言われていた。
あまりにも長い
それは、イェールカにとって死を意味していた。
もともと、ただじっと立っていることも難しいような病弱の身だったのだ。それでも歌いに出なければ家族が罰を受ける。
はじめは、歌が上手くて元気な娘たちが呼ばれた。それでも雨が来なければ普通に歌う娘を、それでもだめで歌の苦手な娘を。やがてはついに病の娘たちを。
イェールカが白くひび割れた大地の上に引きずり出された時には、近隣の見知った娘たちは皆瀕死となって運ばれた後だった。
もう誰も期待はしていない。病人のイェールカが
イェールカ自身でさえも。
わたしはここで死ぬ。
イェールカはそう思った。歌っても死ぬ。歌わなくても家にお
この
雨をもたらさない
民の命を埃とも思わない王のために。
弱々しいかすれた声でイェールカが歌い始めたのは、日が傾き始めた時刻のことだったと伝わる。
人々は驚き、
不謹慎な。罰当たりな。こんな歌で
役人の命があって、イェールカは剣で刺し殺された。
血潮が流れ出し、乾き切った大地にするすると吸い込まれていった。
――わたしは、わたしを弔った。
苦しい息の下からイェールカはそう歌った。
声の高さも分からない、長い節もない、震えて苦しげな息ばかりの、しかしそれは確かに歌であった。
――わたしは、家族を弔った。
――わたしは、皆を弔った。
――街を。国を。この世のすべてを。
――遅かれ早かれ、皆、滅ぶ。
――見ていろ、
――わたしは、
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