マヒカ ―妹―

 マヒカは私の双子の妹だ。もう長いこと会っていない。親のない私たちは一緒にとある家に引き取られたが、養親たちはやがて双子の片方だけを選びもう片方を捨てた。器量がよく従順で、愛想があり賢い方を選んだのだと思う。

 養父が私だけを家から連れ出した時、マヒカは養母の腕に取りついて甘えた仕草をしながらこちらを見、にやりと笑った。

 私はそのままこのに引き渡された。

 以来お互い、何の音信もない。


 マヒカが養父母の自慢の娘になり、ついに雨花娘イェールカの候補にまでなった、という噂は私のところまでも聞こえてきた。彼らは商売の都合で都を離れ森に近い宿場町に住んでいたのだが、このたびの龍神祭イズリルのために都にやって来る。

 養父母からは恵みの家宛てに、エヒカが自分達のマヒカの姉だなどということは決して口外せず、雨花娘イェールカの歌の間は私を広場に近付けないように、と知らせが来た。

 お城からの命令で恵みの家を預かるたちは、だから、龍神祭イズリルを見に出てはいけないと私に言い、山ほどの縫い取り仕事を命じた。これが終わるまでは決して外に出てはいけないと。

 それで私は三日も前から縫い取りばかりしている。誰かとお祭りを見に行く約束もしていない。先生たちは私のかたわらの籠にまだたくさん縫うべき布が残っているのを確認してから出ていった。

 誰も残らない。この都の城壁内に住む人は、龍神祭イズリルを見ないと災難に遭うと言われているから。

 誰もいなくなった家で私はしばらく針を使い、やがて手にしていたものをすべて籠の中に放って立ち上がった。


 行かなければならない。





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