告白
星成和貴
第1話
毎年、このお祭りには来ている。小さい頃は両親と。中学に入ってから去年までは友達と。そして、今年は…………。
最初は何とも思っていなかった。
小説が好きで、だから入った文芸部。そこに一緒に入ってきたのが彼だった。
活動内容を全く知らなかった私と違って、彼は全てを知っていた。ここが、小説や詩などを書く部活だと言うことを。
だから、読むことしかしてきていなかった私にはうまく馴染めなかった。
そんな私に彼は自分の小説を読むように言ってきた。読んでもらったことがないから、感想を聞かせてほしい、と。
こうして、私と彼の二人だけの活動が始まった。
彼の書く物語はとても綺麗で、その文章に私は惹かれていった。そう、最初は彼の文章を私は好きになっていた。
だから、私は彼が新しい作品を書いてくるのを毎日楽しみにしていた。そして、ある時に気がついた。彼が書いてくる物語が私の好みの内容になってきていることに。
彼とは新作がない時には私が読んできた本たちの事を話したりもした。だから、私の好きな物語も知っていた。だから、私に合わせて作ってくれたのかな、私のためだけに書いてくれたのかな、だなんて考えたりした。
……それが、何だか嬉しかった。だから、気付いちゃったんだ。私が好きなのは、彼の小説ではなく、彼自身になっていたんだ、って。
それからは大変だった。彼と自然に話していたはずなのに、どう話していたかが分からなくなった。顔を見ることもできないで、つい、避けるような行動をしちゃった時もあった。
そんな日々が続いたある日、彼から渡された小説は酷かった。綺麗だった文章は見る影もなく、内容も支離滅裂で彼らしくなかった。だから、私は彼に聞いてみたんだ。
「あの、今回の小説、いつもと違ったけど、何かあったの?」
「……ごめん。全然集中できなくて、でも、何か書かなきゃ、ってそう思って無理矢理に書いたから……」
「その、もし、何か悩みとかあるなら、私で良ければ聞くよ」
思いきって、勇気を出して言った私の言葉は虚空に消え、彼は無言でその場を立ち去ってしまった。
それから彼は部活には来なくなってしまった。学校には来ているらしいけれど、放課後はすぐに帰宅しているらしい。だから、私も部活には顔を出さなくなった。
それから一月くらい、彼のいない生活を送っていた。このまま、部活も辞めて、彼のことも諦めよう。そう思っていたら、突然彼が私の教室までやって来た。
「これ、ちゃんと書いたから、書けたから、だから、読んでまた感想を聞かせてほしい」
そんな言葉と一緒に渡されたのは、いつもよりもたった数枚のコピー用紙。私は頷いてそれを受け取った。
最後になるかもしれない、そう思って読んだ彼の小説は恋愛小説だった。その物語の最後は、主人公の男の子がずっと好きだった女の子に告白をしていた。そして、その返事のところが、
「 」
何故か空白になっていた。理由は、すぐに分かった。だって、主人公の名前は彼の名前で、ヒロインの名前が私の名前だったんだから。だから、こういうこと、なんだよね?わたしはペンを取ると、その空白にこう書き足した。
「 はい。 」
私はそれを持って、彼に会いに行った。彼は私の答えを見ると、「こんな告白でごめん」って謝ってくれたけれど、私にとっては最高の告白だった。
そして、今日。私の隣には彼がいる。
毎年来ていたこのお祭り。ただ、隣に彼がいる、それだけの事なのに、今までとは全く違う景色になっていた。
今年のお祭りは今までで最高のお祭り、そう心から思った。
……彼も、そう思ってくれているといいな。
告白 星成和貴 @Hoshinari
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