その②
「ああ、いけませんよ、スーリアさん。礼の角度は四十五度。
──教会に着いて、すでに五日目。
精霊姫としての儀を
最初は「え? 儀式っていっても、軽く鐘を鳴らして、ちょっと祈りの
そんなかつての自分の頰を、今は一発平手打ちしてやりたい。
鐘を鳴らすことに間違いはないが、それまでに色々と手順があり、これがもう本当に
女王が初代国王の傍付きの精霊使いに
とにかく想像以上に、謁見の儀での精霊姫の役割は多かった。
従来の精霊姫は、貴族の
しかし、私は少しいいとこ出なだけのただの
すべて一から教わる必要があり、わりと毎日ボロボロである。……そしてなにより。
「先ほどよりいいですよ、美しい礼でした。剣の
「! そ、そうですか? それでしたら……」
「はい。では今の感覚を忘れないうちにもう一回」
きゅ、
私の指導役を任されたこの女性・マリーナ=レヴィオンさん。
なんとレヴィオン
彼女の指導は非常に厳しかった。
初対面時──「先に言っておきますね、スーリアさん。私、
「さぁ、それでは最初から」
本当に悪魔!
「ス、スー?
「よれよれってことかしら……」
教会内にある、特訓用に借りている広間から出た私は、
特訓中は教会の精霊たちと
「ここまで精霊姫の役割が
整えられた広い庭を
そういうことじゃないんだけど、少し癒されたわ。
ウォルもいるし、ロア君なんて一挙一動が微笑ましいので、決して癒しが
しかし幸いにして、明日はマリーナさんに用事があって特訓はお休み。自主練さえ終われば息抜きに街に出てみたいなと、私は
……でも街に出るには、レイスに同行を
精霊姫である私がお願いすれば、職務として付き合ってくれるとは思う。
だがアイツにお願い事など
本音を言えば、私はロア君とウォルと一緒に、二人と一匹で街に行きたい。でもロア君はバタついていて
事件はいまだ続いていて、先日ついに、八人目の行方不明者が出てしまった。
そんな中で街に出かけるのはやはり、やめた方がいいということなのか。ああでも、この機会を
うんうんと
噂をすれば──こちらに向かって歩いてくる、護衛騎士様の姿が。
陽の下で見ると、レイスの黒髪は光を
簡素な装いで腰に剣を帯びた彼は、ピタリと私の前で足を止めた。
「な、なによ?」
意表を突かれたため、
ウォルは相変わらずレイスに対しては
でも近寄るなってウォル、一応コイツ、私の護衛だからね。
あまりに反応が
単純にウォルと
「……お前、明日は特訓が休みだったな?」
「え?」
問われた内容が
「や、休みだけど」
「……そうか」
そして訪れる、謎の
レイスは
沈黙が気まずくて、私は彼の首からさがる、
光の加減で七色に変わるそれは、『精霊水晶』というものだ。初日にロア君が「使徒長様から騎士様にお
使徒長様直々に霊力を込めたらしいこの水晶を身につけていると、霊力のない者でも精霊が見えるようになるという。
つまり、今のレイスには自分を威嚇するウォルがバッチリ見えているわけだが、気にする
ただ不思議なのは、護衛騎士に霊力を
なぜ使徒長様自ら、貴重な精霊水晶をレイスに用意したのか。それとなくロア君に尋ねてみたが、彼もわからないようで困った顔をさせてしまった。これについてはいまだにお会いできていない使徒長様に、いずれ直接お聞きしてみようと思う。
そんなことをツラツラと考えていたら、レイスがようやく口を開く。
「
「え、ああ、うん」
なにかと思えば、急に予定の報告をされた。
だからどうしたというのだろう。そこまで悩んで言うことかと
護衛とはいえ、私が教会内で大人しくしていれば、単独で少し出かけるくらい問題ないはずだ。
別に行けば? いいわよ、もう。私は書庫から本でも借りて読んでいるから。
「………………一緒に行くか」
「は?」
──しかし。たっぷり間を空けて飛び出た言葉は、私の思考の
「な、なによ、俺に近付くな、なんて言っといて、
「っ! あのロアとかいう使徒に頼まれただけだ。お前が特訓で
私と一緒にいる時、彼はこの胸元を押さえる動作をよくしている。こんな癖、幼い頃にはなかったはずだが、怒鳴りたいのをこらえてでもいるのだろうか。
……いや、そんなことより、今はこの誘いをどうするかだ。
ロア君が気を回してくれたというなら、
「俺は護衛騎士として、精霊姫であるお前の望みに、ある程度沿う義務がある。俺の用事が済めば、あとはお前の好きにしろ。護衛としての職務は果たす」
彼の口からあくまで『仕事』だと言いきられ、心が小さく波打ったが、それならこちらも立場を利用し、働かせてやるくらいに思えばいいのかもしれない。
それでもまだ決めかねていたら、ウォルが傍で「街? 街に行くの!? 行きたい! 黒頭と一緒は嫌だけど行きたい!」と小さな前足を
思えば私に付き合って、ずっと教会に留まってくれていたものね。
ウォルへのご
「それじゃあ……同行をお願いするわ」
「……わかった」
短く返事をして、レイスは
「ん……?」
陽光を受けて光る精霊水晶。その中に、七色以外の黒い
見間違いかしら……とすぐに思い直して、念願の外出へと
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