第6話 二階のいちばん奥の部屋
https://kakuyomu.jp/users/vvvravivvv/news/16817330667701396895(扉絵)
「気持ちいい!」
洗い物を終えたルナが外へ出ると、いちばんに、ここが空気のきれいな場所だということがわかった。
ルイ・マックールのお城は
けれど、お日さまがのぼり、一歩外に出てみると、
ここにあるのは少ない木々と、その上に広がる青い空。
あとは、後ろにルイ・マックールのお城がひとつあるだけ。
なんて
山のてっぺんだからか、木々の数はそう多くない。
「あれ?」
ルナは何だろう、と目を
(この山にはちゃんと、動物たちもすんでいるんだ!)
野生なのか、
(そういえば、ふもとに一軒、家があるっておっしゃってたなあ)
猫ちゃんはそこの子かもしれない。
お師匠さまが飼っている、ってこともあるかもしれないけれど。
どっちにしても、動物が山にいるということは、お師匠さまが平和に暮らせている
「待たせたね」
深呼吸するルナに、ルイ・マックールが声をかけた。
「ルナは洗い物の
「家でお菓子作りをするので、その時に……あ!」
ルイ・マックールの手には、1本のほうきが
「ありきたりではあるけれど」
新品には見えないが、お師匠さまが使うには小さすぎる。――と、いうことは……! ルナの
ルイ・マックールはルナに古いほうきを持たせた。
「飛ぶんですね!」
ルナはドキドキしながら、ほうきにまたがった。
「いや……」
少し言いにくそうに、ルイマックールはルナから
「今日は、そのほうきで城の中を
ルナはほうきから飛びのいた!
顔から火が出るほど
うつむいたまま、ルナは顔を上げることができない。
ルイ・マックールはそんな新弟子をフォローするように、あたたかい声で言い
「飛ぶというのは決して
「ここを全部おそうじ……」
お師匠さまのおかげで、どうにか顔を上げることができたけれど……。ルナは、ルイ・マックールのお城を見上げた。
外から見たルイ・マックールのお城は、実に
ちょうどカステラを一切れ分、小皿の上に乗せたような形だと、ルナは思った。
そのカステラを横から見て、真ん中の下の方に両開きの
これが表の玄関。もう少し
ルナははじめ、お城といえばおとぎ話のお姫さまが暮らすような、とんがり屋根がいくつもある3
だから、初めて外からルイ・マックールのお城を見たとき、お師匠さまには
その感想も、お掃除するよう言われたばかりではコロッと変わる。
今は、そんな
とはいえ、ルナのおうちと比べたら、はるかに大きくて広い立派なお城に違いない。
「ほうきだけでいいよ」
心配が顔に出ていたのか、やさしいお師匠さまの声がした。
「始めようか」
昨夜のルナには気がつかなかったことだけれど、カステラ一切れの分の
もしそこに、
けれど、この城にはそういうコレクションは何もないから安心だ。
美しい
ルイ・マックールという人は、生活に直接
けれどお掃除がしやすいのは、助かる。
動かす物がないから、ルナは、ただ
それにルナは、おそうじがそんなに苦手ではない。
(まずは二階の部屋から始めよう)
ルナはある程度の、
二階には真っ直ぐな廊下と、ルナの部屋がひとつあるだけ。
ルナの部屋はいちばん奥だから、部屋から廊下。廊下から階段へ奥から
小学校でも、上から下。高いところから低いところへおそうじすると、習ってある。
(ほうきだけのおそうじだから、これなら夕方までには終わりそう!)
「あれ?」
二階に上がったルナは、思わず足を止めた。
ここには
そのいちばん奥に、ルナの部屋がひとつあるだけ。の、はずが――
廊下を中心に左右、奥まで、扉の数が増えていた。
まず、階段の向かいに1部屋。
それから、その両隣に1部屋ずつ。
そして、もともとあったいちばん奥のルナの部屋。
さらにルナの部屋の右隣に、もう1部屋、追加されている。
追加された部屋のとなりに、またもう1部屋。
せめてもの救いは、その向かいは壁で、もう新たな部屋はないこと。
「1、2、3、4……」
ルナは二階だけで、全部合わせて6部屋も掃除しなければならないことになった。
「そんなあ……!」
後ろからお師匠さまもついてきているというのに、何とも情けない声が出た。
無理もない。いくらおそうじが苦手じゃなくたって、部屋の数がこんなに増えていたら、大仕事になる。
ルナは助けを求めるように、優しいお師匠さまを振り返った。
「さあ、行くよ」
ルイ・マックールに笑顔で背を押され、ルナは肩を落とした。
廊下の奥までとぼとぼ歩くルナはまだ知らない――このおそうじの本当の大変さは、部屋の数なんかではなかった。
ルナが、いちばん奥の部屋で掃除を始めてすぐのこと。
「わあっ!」
そこは、ルナの部屋のある場所だが、扉を開けると、もっと広い別の部屋になっていた。
昨夜は初めてのルナが迷わないように、魔法をかけておいたのだと、後ろから師匠が説明した。
「うわあ! きゃあ!」
ほうきで
ルナは全く、ほうきが使えなかった。〈まともに〉と、言った方が正確かもしれない。
ルナが右に掃こうとすれば、左方向へ勝手に力が加わる。
それならばと、左に掃こうものなら、ぐるんと無意味にその場で一回転。
手がほうきから放れ、ルナは尻もちをついた。
「いたた……」
「大丈夫かい? すまないね。そのほうきは持ち主に置いて行かれたままだから
まったく、このほうきの
「相変わらず、主人そっくりだ。それにしても、まだ機嫌を直していなかったとはね」
ほうきに
「そりゃあ、誰だって! 捨てられたら、機嫌も悪くなると、思います! ああっ!」
ルナはついに、ほうきに振り飛ばされた。
――ところだった。ルイ・マックールの助けがなければ。
ルナの体は黄色い光を放つ、魔法陣にやわらかく受け止められている。
魔法陣といっても大小様々あることくらいルナも知っているが、魔法陣がやわらかいなんてことは、初めて知った。
「捨てられたなんて言うからだよ」
「お師匠さまが、そうおっしゃったんじゃないですか……」
ほうきに文字通り振り回されて、ルナはもうヘトヘト。
「置いていったことには違いないが、捨てていったんじゃない。カーネリアは
「……!」
ルナは、ひとつひとつ確かめるように部屋の中を見渡した。
ピンクと赤が少女らしい、チェックの柄のカーテンに、学習机。
パッチワークのベッドカバー。
壁には洋服のかかっていない、うすピンク色のハンガー。
その隣には、古めかしい額縁が
「じゃあ、このほうきって……!」
ルナはお師匠さまの顔を見あげた。
ルイ・マックールはいつものように、ルナに優しく
「この部屋は最後にしたほうがいいかもしれない」
ルイ・マックールは
青色の瞳は、どこかとても遠いところでも見ているようだった。
二階のいちばん奥の部屋。
ルイ・マックールの城の中で、一番いい
そこは、ルイ・マックールの初めての弟子にして、彼同様、100年前に世間を騒がせた天才美少女――。
カーネリア・エイカーの部屋だった。
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