第4話 ゆっくりおやすみ
https://kakuyomu.jp/users/vvvravivvv/news/16817330667627293777(扉絵)
ルナは、知らないお城に一人、ポツンと置いて行かれてしまった。
真っ暗な廊下に、オレンジ色の
目を
ルイ・マックールが出て行った両開きの大きな扉。あれがどうも、正面玄関にあたるらしい。
「わたし、一瞬でお城の玄関にまで来てたんだ……」
自分では、そんな実感は全くない。目の前に突然ルイ・マックールの方が現れたものだとばかり思っていたくらい。
ルナは魔法の力を改めて体感して、少し鳥肌が立った。
鳥肌は、魔法のせいだけではない。
ルイ・マックールの住まいは、壁も床も天井も、ひんやりしている。それに
「よく言えば、古風で雰囲気があるお城。悪く言えば……お化け屋敷」
口にすると余計に鳥肌が立った。
ルナは両手で自分のお口を押えて、きょろきょろと階段を探す。
ルイ・マックールは確か、ルナの部屋は「2階の奥」だと、言っていたから。
キッチンで何か食べていいと言われたけれど、ルナの夕食はもう家で
ルナは、早く明るいところへ行って安心したかった。
なのに、なかなか階段が見つからない。
ルイ・マックールはキッチンの場所は教えてくれたけれど、2階へ上がる階段の場所は言わなかった。
ルナはうす暗い廊下の右と左を、さっきから行ったり来たりしている。
「まったく、もう!」
ルナは背後からにじり寄るような不安を振り払うように、わざとルイ・マックールに腹を立てた。
そうしていないと、こんな古くて暗いお城になんて、いられない。
「もう少していねいに教えてくれたっていいのに! 100歳以上のおじいちゃんのはずなのに、なんてあわてんぼうなの!」
ルナの担任の先生だって、ガサツなところはあるけれど、もう少しちゃんと説明してくれる。
ルナがカッカと威勢よくいられたのも、ほんの数秒のこと。
ひとりで腹を立てていても、だんだんと気持ちがしょぼくれてきた。
せっかく、
心細げに、ぐうとおなかが鳴った。
「やっぱり、何か食べよう……」
教えられたキッチンの方へトボトボと向かう。
長い廊下の端まで来て、ルナの瞳がみるみる元気を取り戻していった。
「なあんだ! ここだったの……!」
2階へ上がる階段は、なんと、キッチンの手前にあった。
夕食は食べないからと、こちら側は見向きもしなかったのが悪かったようだ。それでも、こうして無事に見つけられた。
ルナは、どれだけ安心しただろう。
お腹の虫もホッとしたのか、鳴かなくなった。
ルナはキッチンへ入らずに、フラフラと体が求めるように階段を上がった。
「……部屋は一番奥……だったかな?」
疲れ切った頭で思い出す。
何しろ、いきなりいろいろ言われたので、ちゃんと覚えていない。
(階段を探すのでさえ、ひと苦労だったのに……)
踊り場のあたりで不安が浮かんできたけれど、上りきってみると、2階はまっすぐな廊下が一本と、そのいちばん奥に扉が一つあるだけだった。
これでは迷いようがない。
(よかった……)
ルナは一息つきそうになるのを、ごくんと飲み込んだ。
(まだ油断しちゃダメ! だって、ここはあのルイ・マックールのお城なんだから!)
ルナは廊下のいちばん奥の扉の前まで行って、ぴたりと立ち止まった。深呼吸をして、呪文のように自分に言い聞かせる。
「クモの巣だらけでも、怖くない!」
ルナは思い切って扉を開けた――。
「わあ……!」
部屋の中は廊下よりもずっと明るく、その明かりは天井から下がるお月さまをかたどったライトが照らしていた。
冷たくて
それも、ルナの好きなうすむらさき色!
正面には出窓。
その右のシンプルな木製の机には、スケッチブックと色鉛筆が置いてある。
左側にはベッドがあって、枕の横にマカロンの形をしたクッションがあった。
固くなったルナの心が、やんわりとほどけていく。
ルナはもう一度、ゆっくり部屋の中を見渡した。
「あれ?」
ベッドの上に白い封筒が置いてあった。
Lの字が押された金色の何かで、封がしてある。ルナはていねいに封を開けてみた。
『ルナへ
気に入ってくれるといいけれど。
ゆっくりおやすみ。
きみのお師匠さまより』
ルナは、すぐさまベッドに飛び込んだ。
「ふかふか!」
ゴロンと寝転んで、ピンク色のマカロンの形をしたクッションを抱きしめる。
(いつの間にこんな部屋を用意してくれたんだろう! 好きなものを聞かれたのはこのためだったのかな?)
明日お師匠さまが帰ってきたら、聞きたいことがたくさんある。
たとえば、新しい弟子の人数とか。
あれこれと思いめぐらせるうちに、ルナは吸い込まれるように眠っていた。
初めて来た知らない
ひとりきり。
本来なら、なかなか寝付けなかっただろう。
ひょっとしたら、ルイ・マックールは新しく来た可愛い弟子のために、ベッドによく眠れる魔法をかけておいたのかもしれない。
もっとも、ルナはそんなことを考えるひまもなく、ぐっすりと眠っているのだけれど。
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