4年に1度の逢瀬

千夜碌

4年に1度の逢瀬

この国ではそのお祭りは、4年に1度しか開かれない。

わたし達はその日にだけ、会う約束をしていた。4年に1度しか会えないのだ。日々のことに忙殺されてしまえば、いつしか気持ちも薄れていってしまう。でも、こうして会ってしまうと、やっぱりあなたしかいない、そう思えてしまうのだ。


それなのに、あなたは、この4年の間に結婚をして子どもまでも生まれていたのだ。


「どうして…」


あの約束は嘘だったのだろうか。それとも、約束だと思っていたのは、わたしだけだったのだろうか。どっどっ、と胸の音がやけに大きく聞こえる。


ああ、でも、奥さんをみつめる、あなたのその幸せそうな顔を見ると、なにも言えなくなってしまう。


わたしはどんなに願っても、あなたの隣に並んで立つことは望めないのは分かっていた。

もちろん、あなたの子どもも。


あなたの子どもをよく見せてちょうだい。双子なのね。ふふ、この子はあなたにそっくりね。小さいのにあなたにそっくりで、イケメンさんだわ。こっちの子は……。ここはあなたに似ているけど、ここは奥さんにそっくりだわ…。やだ、あなたと奥さんが交じってるなんて、一気に現実に引き戻されて、気分が悪くなってきた。


「ありゃ、あんたあ、なにかね、今年もまた見に来たんかね」

「そうなんですよお、んもう、かわいくって」

「毎年ひやかしに来んで、今年こそはどうかいね、子どももおるけえね」

「そうですねえ、この子なんてお父さんにそっくりですよね。こっちの子は、耳がお父さんに似てて、しっぽはお母さんにそっくり」

「かわいいじゃろう。連れて帰っちゃりんさいや」

「そうですねえ、じゃあ、また4年後に」

「なんかね、そりゃ」


あはは、とおじさんと笑い合って別れる。


また4年後に。みんなで。絶対に約束よ。


4匹の頭をぐりぐりと撫でて。

一度も猫たちのほうを振り返らずに、わたしは祭りの会場をあとにした。



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4年に1度の逢瀬 千夜碌 @cao

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