雪祭りを写真に収めたら

響華

雪を写真に収めたら

 この時期の外は、とてもじゃないけど長居したくない寒さだ。

 道民は寒さに強い、なんてSNSをやっているとよく言われるが、ぶっちゃけ個人差だと思う。いや、そりゃあ多少は暖かい地方の人よりは強いんだろうけど、氷点下の気温でコートが要らないとか全員じゃないから、いけて五度とかまでだから。


 まあ、そんな寒い外の中を、僕は一人で立っていた。なんでそんなことをしているのかと言われれば、僕が少し見栄をはろうとしていたからである。

 だって、女の人と待ち合わせなんて、早めに待っていた方がこう……格好がつくじゃないか。いやまあ、僕は別に彼女と付き合ったりしているわけじゃないんだけど。ただの部活の先輩で……あわよくば、その先へ進めたら嬉しいなとも思っていて……。


 思考を遮るように、ぶぶっとスマホのバイブレーションが鳴る。着いた連絡だろうか、僕は慌てて画面を見る。


『そんな所で立ってないで、カフェとかに入ればよかったのに』


 そんな文面にビクッとして辺りを見渡せば、近くのカフェには先輩が座っていた。……なんというか、全然敵わない相手だなと、改めて思った。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「でっかいですね、雪像……」

「そうだね」

「うーん……フレームに収まるかなぁ」

「別に、全てを一度に収める必要はないですよ。写真の本質は、自分が感じた風景を撮る事だと私は思います」


 僕らが今来ているのは、北海道でやっている雪祭りの会場だ。記憶では、最後にここに来たのは小学生の時だった気がする。

 今こうしてここにいるのは、別に学校行事ってわけじゃない。写真部の部活動として、新入生は先輩と一緒に雪祭りに写真を撮りに行くことが決まっているのだ。


「……こんな感じですかね?」

「うん、いい感じだと思います」


 僕が撮った写真を見せようとすると、彼女はひょこっとカメラに……僕の顔にも顔を近づけてくる。

 結果として、先輩の顔を近くて見ることになる。整った容姿と不思議な雰囲気、それでいて少し無邪気な面を持つ独特な彼女は、いくつか賞を取ったこともある写真部の有名人だ。


 くじ引きで一緒になった時は、「私は感覚で写真を撮るタイプですから、あんまり教えるのは上手くないかもしれませんが」なんて言っていた彼女だけれど、彼女の教え方は普通に上手かった。

 二人で一緒に会場を回って、撮りたいと思った物を撮る。アイヌの歴史のワンシーン。とあるゲームの決戦。毎年衣装が変わる歌姫、あとそのコスプレをしてる人。北海道出身の有名人。何故かあった面白外国人。

 芸術性を感じるものから、一発ネタのようなものまで、とにかく自分の撮りたいものを撮った。彼女は後ろで作品への理解が深くなるような解説をしてくれる、面白外国人だと思ってた雪像は、実は結構すごい人だった。


 最初は、ぐるっと雪像を撮って回ってそれで終わりだって、そう思っていたけれど。


「カメラは一応手元に、いつ撮りたいものが出来るか分かりませんから」


 休憩所の一つで、彼女は悪戯っぽくそう微笑む。

 日が落ちるのが早いというのもあるけれど、外はもう真っ暗だ。久しぶりの雪祭りは存外に楽しくて……一緒に楽しめる人がいる事が、とんでもなく大事な事だって言うのが何となくわかった。


「それで」


 そんなもの思いに耽っていてると、彼女の顔が少し近くに来た。


「この雪祭りでしか撮れない、あなたが撮りたいものは、ちゃんと撮れましたか?」


 彼女の質問に、僕は少し考える。撮りたいと思ったものは、全部撮れたと思う。

 僕の答えを待つように、彼女は両手でココアを飲む。撮りたいもの。雪像、イルミネーション、人の笑顔、それと――、


 カシャッと、シャッター音が響いた。ココアから口を離した先輩が、僕の方をじっと見つめて、言った。


「題名は?」


 僕は少し照れながら、答えた。


「撮りたいを共有出来る相手……とか、ですかね」


 最後の方は少し噛んでしまって、彼女は静かに笑った。

 彼女も去年はこんな気持ちになったんだろうか、僕も来年は後輩をこんな気持ちにさせるんだろうか。今日、この祭りを、僕は今までで最高の祭りだったと、きっと覚え続けていくことになるだろう。

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雪祭りを写真に収めたら 響華 @kyoka_norun

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