第11話 相談

 彼から花見に誘われた日の放課後、私は悪友三人にその事を相談していた。場所はよく行く喫茶店。『ブラザー』という看板をくぐり静かな店内の奥の四人がけの席に案内されて席につく。

 ………………

 …………

 ……

「おぉ……鬼神がなぁ」

「あらあら、流石鬼ちゃんね!」

「鬼の名を持つものは強い……雪音敗北……フフ」


 三人は彼の事を褒めつつソラだけは私をからかっている。


「で、なんて返事したのか?まさか……」

「そうそう、そこが重要よ!もしかして」

「雪音はヘタレだから、断ったに違いない」


 皆は私が断ったと思っているのか……まぁ確かに今まで男友達と遊ぶ事なんて小学生の時に皆でドッチボールをしたくらいだろう。

 だから私はいつもの仕返しとばかりに驚かせてやるのだ!


「全力でOKしたわ!」


 ドャ!っと効果音がでそうな顔で私は胸を張って三人に答える!


「はっ?」

「えっ?」

「ま?」


 私はなぜこのことでドヤ顔をしたのだろうと恥ずかしくなり、腰に当てた手をゆっくりと膝に下ろす。そしてそれと同時に顔に熱が集中していくのがわかる。


「そっかぁ……」

「長かったわねぇ」

「雪音……」


 三人は頼んでいたドリンクを、遠くを見つめながら飲んでいる。まるで田舎のおばあちゃんのような貫禄だ……私はその光景を見て少し冷や汗をかいていた。

 そして三人はおもむろに私の方へ振り向くと……


「「「雪音にも春が来たぁぁぁ!!」」」


 満面の笑みで訳のわからない事をほざきだした。


「なななッ!違うからッ!私はそういうつもりじゃないからッ」


 全力で手をブンブンふりながら否定する。その光景を、料理を持ってきた髭面の店長が優しく見つめて……


「青春だなッ!」


 サムズアップして厨房に戻っていった。


「もぅ……そんなんじゃないのに」


 他の人に見られた恥ずかしさと、悪友達にからかわれた羞恥心で益々顔が熱くなる。そこでかおるが話を戻す。


「いつ行くんだ?」


 その質問に頭の中で彼との会話を思い出しながら返事をする。


「えっと再来週の土曜日に……」

「どこに行くの?」


 咲葉が場所を尋ねてくるので、私は彼から提案された場所を伝えた。


 …………


「へぇ!そんな所があるんだ〜」

「うん、彼も行ったことないみたいだけど……いつか行ってみたい事で一緒に」


 それを聞いていたソラが横槍を入れてくる。


「雪音は鬼神のどこに惚れたの?」

「ほぇ?」


 彼女の予想外の質問に私は間抜けな声を出す。そしてワタワタと慌てながら否定する。


「ほ、惚れてないから!勘違いしないでよねッ!」

「じゃあなんで一緒に行くの?」

「それは……その」


 私は急にそんな事を言われたから、なんて答えたらいいかわからず黙ってしまった。そして顔がだんだん熱くなるのを感じてしまう。


「どう思いますか、咲葉隊員」

「そうですね……これは……」

「これは……」


 ゴクリと唾を飲むかおるとソラ。


「……恋ですね!」

「「おぉ!!」」


「ほんとに雪音に春が!」

「フフ……今日は赤飯だね、雪音」


 三人が私をからかいだしたので、それに負けじと反論する。当然顔は赤いまま……


「ちがうってば!ただ……」

「「「……ただ?」」」


 まじまじと顔が赤くなった私を見る三人にボソッとした声で答える。


「なんか、ほっとけないのよね……彼」

「……ほうほう」


「学校でもそうだけど、家での彼もちょっと抜けてるってゆーか……危なっかしいってゆーか……」


 ここで私は大失態をおかした事に気付かずに話を進める。


「この前なんて桃太郎のエサにおにぎりとかスナック菓子買ってきて慌てて止めたんだから!」


 あはははっと笑う私を三人は……


「…………えっ?なんて?」

「…………?」

「……?」


(やっべぇ……やってしまった〜自分から墓穴ほっちゃったよ〜)


「……雪音」

「……はい」

「わかってるな?」

「……はい」

「フフ……今夜は寝かせないゼ☆」


 その後、お店の閉店時間ギリギリまで私は質問攻めに合うのだった。


(まぁ……今度彼に謝ろう)


 この時から、話す口実ができたと思う程、彼の事を考えるようになっていった。

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