第7話 不安
私は彼の家の庭で桃太郎の世話をするようになって、少しずつではあるが彼の事を理解してきた。
あまり多くを語らない彼だが、動物や植物が好きだと言う事が最近の収穫だ。不本意ながら彼の家に行くのが、最近の楽しみになっているとは誰にも言えない。
(あの告白みたいな事を言われたから?)
と頭の中で思ったが、私は首を横に振る。ただ……彼と居ると落ち着く、この感情が一番しっくりくる。
そんな中、学校では体育の授業が行われていた。女子は走幅跳、男子はバスケットボールをしている。
ふと彼を見ると自分のチームのネット下で一人佇んでいる。どうやら味方チームは彼を居ないものとして作戦を立てたらしい。
(ムカつく……)
気づけば最近やたらと私の目が彼の方に向いていると自覚する。どうしても……なんというか……見ていられない。そんな気持ちになる。
(この気持ちはきっと小さい子を見守るとかそんな感じだ!断じて好きだから気になるとかじゃない!断じて……)
授業も終わり昼休みになると、彼はまたフラフラと教室を後にする。
「……雪音どこいくの?」
「ちょっとお花摘み」
「わかった……お弁当が無くなってても知らない。フフフッ」
「それはやめて!」
ソラに一つ断りを入れると私は彼の後を付けて教室を出た。申し訳ないと思いながら好奇心が勝ってしまう。
「どこいくんだろ?」
彼はゆっくりと歩きながら階段を降りていきある場所で止まり、ノックをしてから入った。場所は『保健室』
(やっぱりどこか怪我してるのかな?)
私は興味本位で保健室の扉をそっと開け中を覗く。しかし入口にカーテンがしてある為彼の姿は見えない。
耳だけに意識を集中し会話の音を拾う。
「千姫……どうだ?」
「はい……気持ち……いいです」
なんと中から聞こえてきたのは、かおるの声だった。それに彼は「気持ちいい」と言っている。
私は一瞬にして顔から汗が滴るのを感じた。
(ちょちょちょっと!かおる何やってるのよ!ってかどういう事?)
私は更に耳を扉に近づける。
「……あと……どれくらい……だ」
かおるの声がよく聞こえない。
「……です、でも……」
彼の声も所々昼休みの雑踏に混じって聞き取りずらくなってくる。
「……ゆ……には……のか?」
「いえ……ない……です。お願いします」
彼はかおるに何をお願いしているのか?気になって仕方がない。最近少し話をするようになった男の子。その男の子と親しそうにしている親友。
このモヤモヤはなんだろう?と思う反面。そういえばかおるは最初から彼の事を知っていた様子だったなと思い出す。思い出すと同時に納得してしまった。
(そういう関係なのかな……)
私以外の三人とは良く話している光景を目にする。しかし彼が私と話すときは……いつも寂しそうに悲しそうに話す印象がある。
「……仲良くなったと思い込んでいるのは、私だけなのかな」
私はつい独り言を呟いていた。その独り言に対して横から答えが返ってきた。
「あらあら、私はあなたと仲良しな親友よ」
ふふふと不気味な笑みを浮かべているのは咲葉だった。
「げっ、咲葉。なんでここにいるのよ?」
「それはこっちのセリフだけど?私は指を怪我したから保健室に来たの。あなたは覗き?」
「ち、違うッ」
今の状況はどう見ても覗きだった。
「早く教室帰らないとソラに全部食べられちゃうわよ?」
「あぁ!そうだったぁぁ!」
私はその言葉にダッシュで階段をかけ登っていった。
コンコンッ
「ん?どうぞ〜、つっても今保健の先生いないけど……」
「私よ」
「なんだ咲葉か、脅かすなよ」
かおるは入ってきた人物を見て安堵していた。
「さっき雪音が扉の前に居たわ」
「「ッ!!」」
その言葉にかおると千姫は青ざめる。
「き、聞かれたのか?」
「……」
ゴクリッと唾を飲む二人。
そして咲葉は少し考えた素振りを見せて首を横に振る。
「いえ、あの様子だと……多分大丈夫だと思うわ。何か一人でブツブツ言ってたから」
その答えに、はぁと息を吐く二人。
「ねぇ千姫……」
「ん?」
咲葉は真剣な表情で彼を見ている。そして
「雪音には……その……本当の事言わないの?」
「……うん」
彼は少し迷いながら言葉を発した。
「でも、それじゃあ……あなたは何の為に……」
彼女は俯き目に涙を溜めている。そんな彼女に千姫が優しく声を重ねる
「……咲葉ありがとう。今までも……そしてこれからも。僕はね……雪音の笑顔が見れただけで十分なんだよ」
彼はゆっくりと私の手を握ってくれた。その力は弱々しくけれど暖かく。
「……あとどのくらいなの?」
咲葉は彼の手を握りながら質問する。
「……おそらくーー」
彼の口から聞いた内容は到底受け入れる事ができない事だった。その事実を知る日が来るのだろうか……できるなら知らないまま過ごして欲しいと咲葉は親友を思い目元を濡らしていく。
隣にきたかおるも同じ思いだったのだろう。優しく私の背中を抱きしめて、肩を震わせていた。
「……ごめん」
彼の言葉は今は聞きたくない。
四月の終わり始まったばかりの季節に……その言葉だけは聞きたくなかった……
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