第4話 葛藤
あれから彼が戻ってきたのは昼休みを過ぎた授業中のことだった。
「おっ?
「マジ体力無さすぎ」
「そりゃあんな体してるからだろ笑」
クラスのやんちゃしてるヤツらは陰でコソコソ話している。しかも彼に聞こえる声で。
(アイツら……)
とても腹が立つ。しかしもっと腹立たしいのは当の本人の態度だ。彼は自分が噂話をされていると知っていながらヘラヘラと笑っているだけだった。
(なんなのよあいつ?悔しくないの?)
私はやり場のない気持ちのまま授業を聞いていた。しかし一度気になったら集中できるはずもなく、ずっとイライラしていた。
そして放課後、このイライラを直接ぶつける為に隣の彼に話しかけた。
「ちょっとあんた!悔しくないわけ?」
私は主語も忘れて彼に怒鳴り散らしていた。
彼は一瞬ビクッとしていたが、やがて落ち着いて微笑みながら言葉を返してくる。
「えっと……ゆき、桃宮さん……何が?」
「はぁ? なにがじゃないでしょ?アイツらに言われっぱなしでいいのかって聞いてんの!」
彼はどうしたもんかと困った表情をして、少し考えてこんな事を言い出した。
「学校って、色んな人がいて楽しい所だね。心配してくれてありがとう桃宮さん」
ニコッと笑う彼の衝撃的な発言に私は何も言えなかった。
そして彼はおもむろに立ち上がり鞄を持って教室から去って行った。去り際に「さようなら」と告げて……私はさらにむしゃくしゃした気持ちを溜め込んでしまった。
「なんなのあいつ!意味わかんない!どういう神経してんの?陰口言われてんだよ?」
そして私もその気持ちのまま教室を後にした。他の三人は部活やら生徒会やらですでに居ない。
(こんな気持ちの時はあそこに行こう!)
私は気持ちが落ち着かない時によく行くお気に入りの場所がある。そこは学校から三十分程歩いた場所。
丘の上に大きな木があり古い家が建っている所。街が一望できて夕日がとても綺麗に見える。
私は何かあるといつもその場所に行き黄昏ている。この家は昔から結構昔から建っていて、今は人が住んでいないのだとか……その割には外観は美しい。
「はぁ……なんで怒鳴っちゃったんだろう」
私は後悔していた。
いくら自分の思い通りにいかないからといって、怒鳴らなくても良かったはず。
だけど……彼も彼だ!あんなに陰口言われてどうしてヘラヘラしてられるのか。そう考えるとまたイライラしてきた。
「お〜い桃太郎!!」
ビクッと肩が震えた。
いきなり声をかけられるなんて。いやそれよりも昔の悪しきあだ名を呼ばれた事にビックリしたのだ。
(誰なのよ……)
そう思い振り返ったが、どうやら私に対して掛けた言葉じゃないらしい。
古い家の柵の中に犬が見える。そしてその犬に対して坂道の下から手を振る一人の男の子。
「……なんで彼が」
犬に手を振っている男の子は、先程までの心の住人。
鬼神千姫その人だった。
ーーーーーーーー
【あとがき】
本作品をお読み下さりありがとうございます。
更新日時を決めましたので報告します。
火曜日・金曜日・日曜日の19時頃
週3回の更新を予定しております。
何卒よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます