38.三つ編み



「女子会すりゃいいんじゃね?」


「女子会?」


腹割って話すなら、と庭師の少年に提案された内容が解らずリュディアは首を傾げた。

庭師見習いの少年もまた、聞き齧っただけだと首を捻りながら説明する。


「とりあえず女子だけで集まるヤツ」


「女性限定のお茶会やパーティーをすればいいんですの?」


そういった類いのものなら既にある。エミーリアも侯爵令嬢なので、令嬢として招待すればよいのだろうか。リュディアが思案していると、庭師見習いの少年はそうではないと首を横に振った。


「そういうのよりは同じ部屋泊まってダベるヤツの方が、なんだっけな……、パジャマパーティー、だったか。お嬢の部屋広そうだからできんじゃね?」


「パジャマパーティー……」


聞いたことがない言葉だったが、リュディアには不思議と魅力的に響いた。家族以外と同じベッドで寝る、という体験はしたことがないので未知の領域だが、楽しそうだ。

自分の瞳が余程輝いていたのか、庭師見習いの少年は少し可笑しそうに眼を細める。


「今度、トルデ様たちもお誘いしたいですわ」


「じゃあ、委員長たちには予行練習で付き合ってもらったらどうだ?」


「それはいい案ですわね」


「……あの」


リュディアと庭師見習いの少年が、声をかけられた方へ振り向く。すると、難しい表情をしたエミーリアが直立不動で立っていた。

二人とも不思議そうに首を傾げるが、エミーリアの方が疑問を呈したい。


「どうして私の前で、私に関するくわだてをするのですか」


護衛として、またメイドとして黙して控えているつもりだったが、主人と一応の友人がいかに自分を懐柔かいじゅうするか、を目の前で相談し合っているのだ。流石に黙っていられなかった。


「わたくし、隠し事は苦手ですの」


「委員長、影でこそこそされんの嫌そうじゃん」


隠し事は性に合っていないのでなるべくしたくないという主人、勝手に自分の好き嫌いに予測を立てる庭師見習いの少年。確かに令嬢間での噂話や陰口は得意ではないので、エミーリアは閉口する。しかし、開き直ったが如くここまで堂々と話されるとどう反応していいのか困る。


「ということで、わたくしの予行練習に付き合ってくれません?」


「……っ」


瞳を輝かせてリュディアはエミーリアに懇願する。本当に楽しみなのだろう、心なしか頬が紅潮しているように見えた。エミーリアは回答に困窮する。

主人としての命令ではなく、飽くまで懇願のため、エミーリアに断る余地がある。だが、断ると主人が落ち込むのは必至ひっし。主人の心身を護るための護衛でありメイドでもあるエミーリアが、不必要に主人の気分を害するには抵抗があった。


「駄目、ですの……?」


「~~っわか、りました」


リュディアの瞳が不安げに揺れたのを見て、エミーリアは渋々折れた。瞬間、リュディアの表情が嬉し気に綻ぶ。


「ありがとうっ、エミーリア」


使用人一人の挙動にここまで嬉しそうに喜ばれてしまい、エミーリアは戸惑った。エミーリアの主人はとても愛らしい笑顔を見せる。お茶会の席では凛とした佇まいだが、家族や友人の前では表情が豊かになり、それは邸内の使用人たちにも同じだった。

使用人として立場をわきまえた距離を保とうとしているエミーリアは、その気を許した笑顔を向けられるたび困惑してしまう。どう反応を返せばいいのか判らない。

内心の困惑を主人にぶつける訳にもゆかず、エミーリアは隣の庭師見習いの少年へ視線をやり眇めた。


「貴様、リュディア様に妙な入れ知恵をするな」


「俺はお嬢に笑っていてほしいだけだ。それに、俺の案を使うかはお嬢が決めるコトだろ」


エミーリアが鋭利な眼差しを向けているにもかかわらず、庭師見習いの少年は平然と返す。提案をしただけなのは事実のため、それ以上注意することが叶わず、エミーリアの表情は更に厳しいものとなる。

それを見て、庭師見習いの少年は自分の眉間に指を当てた。


「委員長も、笑った方が可愛いぞ。お嬢も喜ぶ」


「っな!?」


へらりと気の抜けたように笑う庭師見習いの少年の言葉に、エミーリアは腹が立つ。軽々しいことばかりを言う男は信用できない。自分を女だと思って馬鹿にしているとしか思えなかった。


「貴様、見くびるな!」


「へ? 何の話だ??」


きょとんとした庭師見習いの少年の反応が、エミーリアにはとぼけているとしか見えない。だから、余計に腹が立った。


「私は護衛なのよ。へらへらして、気を抜いていい訳ないでしょう!」


「護衛だから、って……、疲れそうな考え方だなぁ」


「何ですって!?」


「お嬢も、委員長が笑ったら可愛いと思うよな?」


主人に話題を振られて、エミーリアはびくりと肩が跳ねる。思わず気が立ってしまい庭師見習いの少年と口論をしてしまった。これではまた注意されてしまう。


「それは、勿、論……」


だが、リュディアはぎこちない笑みで頷くだけだった。


「お嬢?」


「リュディア様?」


先程までの、嬉しそうな笑顔との違いに首を傾げる。だが、護衛としての直感でエミーリアは庭師見習いの少年を睨みつける。


「貴様のせいだ」


「え、俺?」


一瞬、虚を突かれたように眼を丸くしたが、庭師見習いの少年は図書室の一人用ソファから立ち上がり、リュディアが座っているソファの傍らへ移動し、屈んだ。


「お嬢、ごめん。俺、何かした?」


「え。いえ……、急に話を振られて、びっくりしただけですわ」


ぎこちない笑みのままそう返すリュディアに、庭師見習いの少年は眉を下げる。


「どうしたら、許してくれる?」


「だから……」


あかがね色の瞳に真っ直ぐ見つめられ、リュディアは言葉を詰まらせる。

その眼差しから逃れようと思案するが、数秒後にできないことを悟り、テーブルに置いたままでまだ読めていない童話に手を伸ばした。


「……じゃあ、この本を朗読してくれたら」


庭師見習いの少年の識字能力が一定のレベルになったので、最近はお互いに好きな本を黙々と読むだけだった。発音の練習も兼ねて絵本を朗読してもらっていた頃が懐かしく思えた。だから、そんな提案が浮かんだのだろう。


「ああ」


リュディアの些細なおねだりを聞いて、庭師見習いの少年は優しい笑みを浮かべた。本を受け取ると、リュディアの隣に座り、できるだけつっかえないように気を付けながら読み始める。

朗読が始まってから、リュディアの表情が嬉しげに見え、エミーリアは奥歯を噛み締める。主人が許しているとはいえ平民の彼が席を並べていることもそうだが、何より容易く主人の機嫌を取ることが気に入らない。何か下心があるに違いない。

エミーリアは、主人であるリュディアが滞りなく公爵令嬢の責務を果たせるように、と自分が護衛につく際は、私語を慎み、把握したスケジュールに基づき先んじて準備を行っている。ペトラやイェルクにも円滑に進めるよう注意をしているが、ペトラは頷きはするがちゃんと聞いているか怪しく、イェルクは言い訳が多い。

だからこそ、自分がきちんと律しなければならない。そうエミーリアは考えていた。時折、主人が自分の態度にほんの少し淋しそうにするが、きっといつか解ってくれるだろう。


「リュディア様、そろそろ切り上げましょう。ピアノの稽古の時間です」


朗読の声に割り入って時刻が迫っていることを告げる。


「まだ余裕はあるでしょう?」


「先生をお待たせする訳にはいきません」


「はい……」


エミーリアがきっぱりと言い切ると、リュディアは少し淋しげに頷いた。それはエミーリアには見慣れたものだ。


「そうか。お嬢のピアノが聴けるのは楽しみだな。本の続きは今度でいいじゃん」


ちょうどピアノがある部屋の近くで作業予定だと、庭師見習いの少年が笑って喜ぶ。彼の言葉を聞いて、リュディアは頬を赤く染めた。


「きっ、聞き耳を立てるなんて……! 練習しているものですのよ!?」


「勝手に聞こえてくるのに、聞き耳も何もないだろ。それに、お嬢の弾いてる音、綺麗で好きだし」


拙い演奏を聴かれることに羞恥を感じるリュディアに、庭師見習いの少年は恥じる必要があるのかと不思議そうに返す。今度は羞恥とは別の意味でリュディアの頬が染まった。


「ザクはできるだけ遠くで作業なさい!」


「えー」


残念そうな声をあげる庭師見習いの少年から、そっぽを向いてリュディアは席を立つ。

図書室の扉に向かう彼女の背中を見送りながら、庭師見習いの少年は手元の開いたままの本に気付く。


「あ、しおり


ページは覚えたから、後で挟んでおくわ」


開いたままの頁に一度眼を落とし、エミーリアは本を渡すように手を差し出す。主人の温情がなければ文字に触れることもできない彼が、栞を所持しているはずもない。

庭師見習いの少年は、眼を丸くする。


「委員長って、すげーな!」


「これぐらいできて当たり前よ!」


庭師見習いの少年は、たかが一瞥いちべつで頁を覚えただけで大袈裟な反応を見せる。それがわずらわしくて、エミーリアはなかば奪うように本を受け取った。

エミーリアが、リュディアに追い付き、彼女より先に扉の取っ手を取る。扉を開けるとき、主人の機嫌が良くなっていることが表情から読み取れた。

扉を閉める間際、エミーリアはその原因を睨み付けたのだった。



夜のとばりが下りる頃、ランプの明かりをベッドの周辺だけ照らす程度に落としながら、メイドのカトリンは戸惑いがちに言う。


「私までよかったのでしょうか……?」


彼女は普段のお仕着せではなくレースが少なめのシンプルなネグリジェを纏って、普段上げている髪も下ろし、ゆるく一つにくくっていた。


「トルデ様たちを誘うのだから、わたくしを入れて四人以上充分に寝られるか確認しないといけませんわ」


「というのは建前でー、最初に仲良くなれたのがカトリンさんだからぜーったい誘いたかったそうですー」


「ちょっ、ペトラ!?」


本当の理由をペトラに明かされ、リュディアは焦る。というか、何故話していないはずのことを知っているのか。ふふふーと笑って余った袖で口元を隠すペトラに訊いても、きっと答えてくれなさそうだ。

カトリンもくすりと笑みを零すので、リュディアは羞恥で頬が熱くなる。思わず睨むようにカトリンを見てしまう。


「何ですの……?」


「いえ、とても光栄だと思いまして」


そう言って、カトリンが嬉しげに微笑むので、リュディアは安堵と嬉しさで胸がいっぱいになり、押し黙ってしまう。


「エミーリアもー、立ってないでこっちくるですー」


ペトラが上下に勢いをつけつつ全身で、同僚のエミーリアを呼ぶ。ペトラの動きで同じベッドにいるリュディアにまで、その振動が届いた。エミーリアは薄くむらさきがかったネグリジェ姿で、口を真一文字に引き結んで直立不動でいる。


「いい加減、観念するですー」


「ほら、エミーリアも座って」


「……しかし」


主人のリュディアに声をかけられて、ようやく返ったエミーリアの返事は渋いものだった。どうしたものか、とリュディアが悩んでいると、些細な違和感に気付いた。


「今、何か光りませんでした?」


エミーリアのスカートの裾が揺れた際、ランプの光が僅かに反射した。光る装飾などないので、不思議に思ってリュディアが首を傾げると、思い至ったエミーリアはスカートを軽く持ち上げて右の太股ふとももさらした。

そこにはベルトで固定された金属の十字、スティレットがあった。


「寝間着だと隠せる場所が少ないので」


「寝るときまで武器を携帯しては、休まらないでしょう……っ」


安全な寝室まで武器を持ち込んでいることにリュディアは驚く。最初にお仕着せの袖に仕込んでいるのを確認しているので、外出もある普段は携帯していると薄々気付いていた。だが、今は黙認できない。股に金属があっては、寝返りがうちづらいだろう。

主人の指摘に、エミーリアは不服そうに僅かに眉を寄せた。


「ですが……」


自分の安息より主人の安全を優先するエミーリアには、いくら主人の命だろうと護衛として、より安全な方を選ぶ。それは変わらないが、リュディアが自分まで気遣ってくれるのをないがしろにもできず、説得の言葉がうまく出てこない。悩んで俯きがちになり、さらりと真っ直ぐな黒髪が肩から落ちた。

その間に、リュディアから溜め息が洩れ、エミーリアははっと顔をあげた。


「仕方ありませんわね」


呆れられたのかと思ったが、リュディアはベッド横にあるチェストまで行き、一番上の引き出しから小さな正方形の紙を取り出した。メモ用紙のようなそれの片面には、インクで描かれた魔法陣があった。

リュディアが両掌の上にその紙を広げ、魔法陣に視線を落としまぶたを伏せた。刹那、リュディアの瞳に稲光いなびかりのような閃光が走った。直後、部屋の壁全体からビリッと音がした。

エミーリアたちは思わず、音のした部屋の周囲を見遣る。音がした以外は何事もないと確認して、リュディアの方に視線を戻すと手元にあった魔法陣の紙が消えていた。


「雷の結界を張りましたわ。これで武器を持たなくてもいいでしょう?」


リュディアが張った結界は、仮に侵入者があれば動きを止める程度の感電をさせ、音で気付けるものだ。

誘拐未遂事件以降、リュディアは同じ雷属性の母に頼んで、魔力の使い方を学んでいた。魔法陣の描き方は学園で習うから、と魔法陣の種類の区別と魔力の込め方を教わっている。同じ効果の魔法陣でも込める魔力量で威力や持続時間が変わる。魔力量は多いが、人を傷付けたくないリュディアには必要な訓練だった。

これで安心して武装を解除できるだろうというリュディアの思惑に反して、エミーリアは更に眉を寄せ、憮然とした表情を見せた。

リュディアは小首を傾げるが、エミーリアからすれば護衛である自分が逆に主人に守護されては立つ瀬がない。釈然としない心持ちになるのも当然だった。だが、主人の安全が確保された事実があるので、渋々ベルトを外しスティレットをチェストの上に置いた。

エミーリアが、隅の方だがベッドに正座したのを確認して、リュディアは微笑み、ペトラは近くに来るようぽんぽんと自身の周囲を叩いた。


「では、ココアを淹れますね」


カトリンはそう言って、事前に用意しておいた保温カバーをしたホットミルクとココアの粉を、カップの中で混ぜ始めた。ふわりと湯気と共に甘い香りが漂う。ほんの少し夜更かしをするだけでなく、こんな時間に甘いものを口にする状況がリュディアには背徳的に感じた。


「何だか、どきどきしますわね」


「ワタシはー、いつでも食べたいときにお菓子を食べる派なので、へっちゃらですー」


「太るわよ」


悪いことをしているようだと緊張するリュディアに対し、慣れていると暢気のんきに返すペトラ。そのペトラに、エミーリアがとがめるような視線を寄越した。


「むー、エミーリアはお菓子は別腹とゆー名言を知らないのですかー?」


「名言? 牛じゃないんだから胃袋が何個もある訳ないでしょう。馬鹿言わないの」


「えっ、牛の胃袋は一つじゃないんですの?」


「あ、はい……、草を消化するために四個の胃袋を経るんです」


「そうなんですの!? エミーリアは物知りですのね」


「ペヒシュタイン侯爵領はー、畜産が盛んですもんねー」


「ペトラも地理に詳しいのね」


凄いですわ、とリュディアが褒めると、ペトラはもっと褒めてくれてもいいのだと言わんばかりに頭を差し出してきた。リュディアは、彼女の求めに応じて偉い、と亜麻色あまいろの髪を撫でる。

エミーリアは、リュディアに普通に感心されてしまい戸惑う。思わず返答した内容は生物の生態だ。内臓などの体内器官の話題など、普通の令嬢は嫌がる。風変わりとはいえ、伯爵家のペトラすら平然と受け入れたのは意外だった。

護国主義のペヒシュタイン侯爵家では、男女区別なく鍛えられるため幼い頃から狩に連れられ、解体も眼にする。花や宝石などの綺麗なものより先に血生臭いものに慣れるのだ。エミーリアも少女なので、女性向けのものに興味がない訳ではないが、それだけに占められた話題にはついていけないし、自分の口からは出にくい。

元々、軍人になるか、国の要人の護衛になるか、の二択だったのでそれでも構わないと思っていた。だが、エルンスト家に仕えるようになってから、ただの護衛と扱われないのでどうしたらいいのか判らないことが増えた。

三人の様子に小さく笑みを零しながら、カトリンが用意できたココアのカップを、盆ごとベッドの上に置いた。


「今夜ぐらいはいいでしょう」


零さないように、と注意しながらカトリンはリュディアから順にカップを手渡してゆく。


「どうぞ」


温まりますよ、とエミーリアにも渡される。最初は彼女も自分の剣幕に怯えていたのに、とエミーリアは解せない心持ちのまま、ココアを受け取った。

リュディアたちが既に口をつけていたので、エミーリアもならって、一口飲む。舌に沁みるように甘さが広がり、喉を過ぎた熱がじんわりと身体を温める。思わずほう、と熱を帯びた吐息が洩れたのは、全員同時だった。


「おいしいですー」


「カトリンは、ココアを淹れるのも上手ですのね」


「恐れ入ります」


思わず気を抜いてしまったことにエミーリアは焦ったが、三人はそれを気にした様子なく和やかにココアを飲んでいる。

和やかなこの場に自分がいることが、今更ながら不思議に感じた。

呆けぎみの視線に気付いたリュディアが、エミーリアに微笑む。


「温まりますわね」


「……して」


何故、ただの護衛にこんな可憐に微笑むのだろう。令嬢らしくなく、無粋な話題しか提供できない自分だ。


「……リュディア様は、私が気味悪くないのですか?」


「どうしてですの??」


リュディアには唐突すぎる問いが振られ、彼女は首を傾げる。エミーリアの中で、一体何が気味悪がられると感じたのだろう。


「牛の話を……」


「ああ」


エミーリアの呟きにリュディアは納得する。確かに、お茶会などで家畜の話題がのぼることはない。

リュディアはどう説明したものか考え、口を開いた。


「わたくし、お父様と交換日記をしているでしょう」


急に何の話か、とエミーリアは思ったが、届ける役目を任されたことがあるので、頷いて続きを促した。


「先日、お父様を見習って、料理長たちに日頃の感謝を伝えようと厨房を訪ねましたの。すると、夕食の支度をし始めた頃で、たくさんの食材が並んでましたわ」


色とりどりの野菜や果物だけでなく、その中には勿論食肉もあった。逆さに吊るされた血抜き済みの鶏や、下ろす前のまだ眼の光る魚が、リュディアの視界に入った。


「調理される前の姿を見て、わたくし、びっくりしましたの。それで、怖くなって……その日の夕食はあまり食べられませんでしたわ」


既に命がないものと眼が合った瞬間を思い出して、ぞわりとした恐怖が湧き、首があったはずの場所に何もない空白があった光景が脳裏に焼き付き、料理を前に気持ちが悪くなった。

ちょうど交換日記が自分の番だったので、口ではうまく伝えられなかった恐怖を覚えた事実を、心配をかけた謝罪を添えて綴った。


「日記でお詫びしたら、お父様はこう返してくださったの」


リュディアは、チェストから父との交換日記を取り出し、該当の頁を開いた。


私のディア。君が感じた恐怖は、生きとし生けるものが感じる当然の本能だ。私は、君が命の重みを感じてくれて嬉しく思う。

今後、お腹が空いて、食べ物を美味しく感じることを悪いことだと思うかもしれないが、それはとがではないよ。それもまた生き物の当然の本能だ。

むしろ、既に命がなくなったものを無下にするのは良くない。皿の上に載った時点で、亡くなった彼らをゴミにするかは、私たちの手に委ねられているのだから。


開かれたページの内容に、エミーリアは内心驚く。あの子煩悩な公爵であれば、ただ甘やかすだけの言葉が綴られているとばかり思っていた。叱るような内容を含んでいるとは意外だった。


「お父様のお陰で、食べることに消極的になっていると気付けましたわ」


交換日記の返事を見せて、リュディアは殊更ことさら嬉しげに微笑む。否定するものと認めるものを見誤りかけていたのを、注意してくれた。そこに領地を治める貴族としての姿勢と、父の思いやりを感じ、とても嬉しかった。


「それでね」


リュディアは胸の前で両手を合わせてみせ、手元に視線を落とす。


「ザクの、いただきますとごちそうさまの、本当の意味が分かりましたの」


自然にも感謝を、と言っていたからたぶん彼は解っていただろう。だが、リュディアは自分の知る料理を作る人、材料を育てる人、と貴族として民への感謝の範疇で理解していた。

けれど、それは誤りだった。


「食べるものに対しての感謝と、命を口にしていることを忘れないようにするためですのね」


これまでもこっそり庭師見習いの少年の真似をして、おまじないのようにしてきたが、死骸しがいを口にしていると自覚してから行うと、抱えていた恐怖や困惑がすとんと胸に落ちた。目の前の命に礼儀を払うことで、ここまで心が整理できるとは知らなかった。


「……そんな高尚な考えを持っているようには思えませんが」


慈しむように微笑むリュディアに対して、エミーリアは怪訝な表情になる。庭師見習いの少年に、下心があるかも疑いたくなるほど馬鹿である可能性を考えることはあっても、主人のリュディアに何かを教える頭を持っているように感じたことはない。主人のリュディアが思慮深く、聡明なだけではないのか。

思っていることが露骨に出ていたのだろう、エミーリアの顔を見て、リュディアは可笑しそうに笑う。


「ふふっ、ザクにとっては悩むほど難しいことではないのよ」


彼にとってはごく当たり前で単純なことなのだ。リュディアが悩んでからでないと理解できないことが、必ずしも難解とは限らない。エミーリアは高尚だと評価したが、リュディアにはそこまでのことには思えない。

気付くかどうか。そして、気付いたことをどう受け止めるか、だけの話だ。


「おいしーのはー、めいっぱい食べればいいのですよー」


「そうですわね」


ペトラが笑って、美味しそうにココアを飲む。彼女の考えも一理あると、リュディアは頷いた。


「だからね、エミーリア。わたくしは、動物の話題でも大丈夫ですし、貴女あなたの話を聞きたいですわ。命の重みを知るとても優しい人ですもの」


些細な危険にすら敏感なのは、主人である自分の身を案じてのこと。自分の行動に厳しく注意するのは、将来公爵令嬢として恥じぬように慮ってのこと。彼女の言葉に、気分を害したのではないかと不安に感じたり、悲しく思うことはあるが、後でかえりみれば自分を想っての言葉だと解る。

当初はエミーリアの態度に戸惑い、交換日記を通じて父に相談したこともある。父は、誰かのために厳しくできる人は、自分が傷付く覚悟ができているのだと教えてくれた。そして、そういう人は、自分に一番厳しいから主人であるリュディアが優しくしてあげなさい、とも書いてあった。

父の言葉を受けて、しばらくエミーリアの様子を窺ってみた。常に隙のない彼女の姿勢は、確かに自身に一番厳しくしているようだ。リュディアが彼女なら、そこまでできない。相手のためとはいえ誰かにキツくあたるなんて、リュディアには相当の覚悟がいることだ。

敬服の念を抱くとともに、とても心配になった。そんなに自身に厳しくして辛くないのか、と。

笑ったらもっといいのに、と感じる。

どうすれば笑ってくれるか判らないから、まずは彼女の話が聞きたい。そして、己にも厳しい彼女が自身を否定するなら、自分が声高に肯定しよう。


「貴女みたいな綺麗な人を、気味悪がるなんてあり得ませんわ」


綺麗、という言葉は、高潔な彼女に相応しい。濡羽色ぬればいろの真っ直ぐな髪も、意思の強さが現れている鋭い切れ長の眼も、自分よりずっと綺麗だとリュディアは思う。


「私、が……?」


主人から贈られた言葉に、エミーリアは衝撃を受ける。

黒い髪は陰気だと囁かれ、鋭い眼は睨んでいると、同世代の令嬢たちによく誤解された。だから、綺麗などという言葉とは縁遠いと思っていた。陰口をいとって無視していたはずが、いつのまにか価値観が侵食されていたようだ。


「私よりずっと艶やかな黒髪で、羨ましい限りです」


「あら、カトリンの黒髪も柔らかそうで、わたくし好きですわよ」


「寝起きでもハネないの狡いですー」


「そうなんですの? それは狡いですわ」


口々にエミーリアの容姿に肯定の言葉を投げかけ、三者三様に羨ましがる。それはなんともくすぐったいものだった。エミーリアは下唇を噛み、頬が熱を帯びるのをどうにか押さえようとした。

そうやってエミーリアが初めての感情に堪えている間に、自分は寝起きに髪が爆発するだの、湿気の多い時期は髪がうねるだの、三つ編みにして寝ないと翌朝が怖いだのと髪の悩み暴露大会に発展していた。


「……っく、皆さん大変なんですね」


気付けば自分そっちのけで白熱し始めたのが可笑しくて、エミーリアは思わず喉を鳴らした。必死に気恥ずかしさに抗っていた自分が馬鹿みたいだ。


「もう、エミーリアったら、他人事ひとごとだと思っ、て……」


剥れてエミーリアの方を見たリュディアは、眼を丸くし、一拍置いて表情を輝かせた。


「……笑いましたわ」


「え」


「思った通り、いえ、それ以上に可愛いですわ!」


興奮ぎみに喜ぶリュディアの言葉に、はたと気付いたエミーリアは口元に拳をあて表情を引き締めようとする。

勿体無いと思ってエミーリアを止めようとして、リュディアはあることを思い出し、その点において自身の非を認めた。


「あの、エミーリア……、先日はごめんなさい」


唐突に、ぺこり、と主人に頭を下げられて、今度はエミーリアが眼を丸くした。


「リュディア様!? 何の話で?」


「わたくし、エミーリアが笑ったら可愛いか、ザクに訊かれたとき、うまく頷けていなかったでしょう? その……、あれは、ザクが他の女の子に可愛いと言うのを初めて聞いたものだから、びっくりして」


パーティーに同伴してもらっていたときは言わないように注意していたので、彼が自分と歳の近い異性を褒めるところを見るのは初めてだった。母や妹など身内を褒められたら誇らしく感じるのに、そのときとの違いに驚いたのだ。

多少しどろもどろになりながらも、リュディアは一番伝えたい箇所では拳を作って、力強く宣言した。


「だから、決して、エミーリアが可愛くないなんて思っていませんから! それだけは、誤解しないでくださいね!? エミーリアは、わたくしよりずっと可愛くて」


「リュディア様、それは言い過ぎです」


自分を下げてこちらを上げようとする主人に、エミーリアはきっぱりと掌をあげて制止をかける。主人の方が容姿端麗である事実は譲れない。


「どの令嬢よりも、リュディア様が一番麗しいに決まっています」


「それに、一番可愛らしいですね」


「一番格好いいのですー」


譲れなかったのは、他の二人も同様らしくエミーリアの発言に続いた。エミーリアたちの賛辞に、顔を赤くしたリュディアは、ゆるく編んだ二つの三つ編みで隠そうとする。


「三人とも、み……っ、身内贔屓びいきが過ぎますわよ……!」


「事実です」


断言するエミーリアに、カトリンとペトラがうんうん、と微笑みながら頷いた。そのため、更にリュディアは三つ編みの中にうずもることとなる。

どうにか居たたまれないこの現状を打破しようと、リュディアは頭を悩ませ、一つ思い出した。


「そういえば、髪に癖がつくのを笑った罰を与えていませんわ……!」


「そんな、髪ぐらいで」


「エミーリアはー、サラサラだからそんな風に言えるんですぅー」


「ペトラまで……」


リュディアが大袈裟に剥れていると感じたエミーリアは、ペトラにまで笑った顔のまま責められ、呆れてしまう。

そんな三人を見て、可笑しげにカトリンは微笑んだ。


「ふふ、では、いかがしましょうか? リュディア様」


カトリンに問われ、勿論と言わんばかりにリュディアは判決を告げた。


「三つ編みの刑ですわ!」


くせ毛の苦労を思い知るといいと、エミーリアは三人に取り囲まれる。三人は指をすり抜ける髪に悪戦苦闘しながら三つ編みをし、そのまま一晩いるように言った。しかし、三つ編みが終わる頃には、リュディアたちは睡魔に負け、一人、また一人と眠りに落ちていった。

最後に残ったカトリンが、すやすやと健やかに眠る三人に、首まで布団をかけ、そっとランプの灯を消したのだった。



幾日かした昼下がり、ドレスの上に防寒の外套を纏ったリュディアは満足げだった。


「これで、エミーリアにも見せられますわね」


「何をですか?」


「着けば分かるって」


森のような木々の中を、先導を切って歩く庭師見習いの少年にリュディアが続き、殿しんがりでエミーリアが続く。鼻唄混じりの庭師見習いの少年に反して、目的地を知らないエミーリアは怪訝な様子だ。その違いがリュディアには、なんだか可笑しかった。

パジャマパーティー以降、少しなら、と私語にも寛容になったエミーリアと話すようになり、リュディアは彼女の人となりを少しずつ知っていった。

解って一番嬉しかったのは、彼女がリュディアと同じく可愛いものが好きだということだ。柄ではない、と今まで家族にも明かしていなかったらしい。それを最初に自分に明かしてくれたのが、とても嬉しかった。

エミーリアだけに明かさせるのは不公平だと、リュディアは唯一彼女に隠していたことを明かそうと思った。


「この先」


足を止めた庭師見習いの少年が指差した先は垣根だった。エミーリアはいぶかしがる。


「行き止まりじゃないの」


「ココ、くぐるんだ」


指した先をよく見ると枝に隙間が多く、どうにか人が潜れるだけの余裕があった。


「まさか……」


「だから、フード付きを着てきましたの」


公爵令嬢の主人にそんな真似をさせる気か、と庭師見習いの少年を問い質そうとするより先に、準備万端だと得意気にリュディアが微笑んだ。言葉を挫かれ、エミーリアは対応に困る。主人が、垣根を潜るのを前提で外套を選んでいるとは思わなかった。


「そう、ですか」


エミーリアは、結局ただ頷くしかできなかった。この場で諫言を口にしては、主人の表情が曇ってしまう。令嬢らしさを説くなら、道のない木々の中を歩かせている時点でするべきだ。

可愛いものが好きなエミーリアにとって、一等に可愛らしいものがリュディアだと彼女は知らない。彼女の笑顔に弱いと自覚し、エミーリアはそれを黙した。


「そういえば、ここの垣根は邸の近くのものと違いますのね」


ふと零れたリュディアの言葉に、垣根を潜ろうとしていた庭師見習いの少年は踏みとどまる。


珊瑚樹さんごじゅは見栄えはいいけど、手入れが手間だからなぁ。ここまで手が回らないから、こっちは犬槇いぬまきなんだ」


リュディアが見慣れているのは艶やかで瑞々しい葉の茂る垣根だ。今、目の前にあるのは蜻蛉とんぼはねを思わせる、細く薄い葉が広がるように茂っている。


「けど、邸の方は二種類あるでしょう?」


「いや、垣根に使ってるのは珊瑚樹だけだ」


「だって、玄関の方には赤い実がってませんわ」


正門から正面玄関まで、また応接室や客室辺りは緑だけで、リュディアが散歩したり母とお茶会をする辺りは鈴生すずなりに赤い実が吊り下がっている。明らかに違う様相なのに、庭師見習いの少年は同じ木だと言う。辻褄つじつまが合わないのでは、とリュディアは首を傾げた。


「掃除が大変だから、来客エリアは夏に花を剪定してる」


「わたくしのよく見る辺りはどうして剪定していませんの?」


「お嬢、可愛いの好きだろ」


簡単な話だと、庭師見習いの少年はあっさり答えた。主だって行っているのは彼の父親だが、仕えるエルンスト家の者の眼を楽しませることを最優先にしているのは変わらない。この家の女性陣の好みに合わせて、垣根も季節で移り変わるまま残している。

彼は、エルンスト家の庭師ならば当然のことと言うが、先程、落ちた実の掃除が手間だと言っていなかったか。自分たちのために、面倒なことを度外視するバウムゲルトナー家はどうかしているのではないか。


「ば……っ」


馬鹿じゃないのか、と思わず口に出かけ、リュディアは慌てて口をつぐんだ。彼の父親の献身までののしるつもりはないのだ。彼が自分基準で物を言わなければ、ここまで過剰反応せずに済んだものを。

恨みがましい眼差しを向けても、解っていない庭師見習いの少年はきょとんと見返すだけだ。

庭師見習いの少年は、犬槙の垣根を一瞥してぽつりと呟く。


「まぁ、俺は犬槙の方が好きだけどな」


「どうしてですの?」


彼が自分の好みを口にするとは珍しい。ついさっきまであった文句を言いたい気持ちより興味が克った。


「食べれるから」


「へ?」


単純な回答に、リュディアは眼が点になる。答えた庭師見習いの少年は、犬槙の実を一つ取り、赤黒い実と硬そうな黒い実が連なっている内の柔らかそうな方をちぎって食べた。

生った実をそのまま食べたことがないリュディアは、彼が躊躇ちゅうちょなく食べてみせたことに驚く。


「お嬢も食べるか?」


呆気にとられている間に、もう一つもぎ取り、連なっている二つの実をちぎって一方をリュディアに差し出した。


「貴様、リュディア様にそのまま食べさせる気か!」


「あ。ごめん、洗う」


エミーリアが衛生面を注意すると、庭師見習いの少年はすかさず自身の水属性の魔法で、掌の上の実の汚れを除いた。


「ほい」


改めて差し出されて、リュディアは戸惑う。エミーリアが無理をしなくていいと目線を寄越しているのを感じた。彼女の心配も解るが、彼の厚意からの行動を無下にするのも気が引けた。

数秒悩んだ後、リュディアは恐る恐る手を伸ばし、彼の掌から実を受け取った。そして、一度唾を飲み込んでから、覚悟を決めてその実を口にした。エミーリアが、主人に異変がないか固唾を飲んで見守る。


「甘い……ですわ」


熟しているのか思ったよりも甘かった。ほんのりした甘さが喉を過ぎ去る。本当にただ甘い実で、食べてみれば意外と簡単なことに拍子抜けした。庭師見習いの少年が、エミーリアにも同様に洗った実を勧めると、仕方なさそうに口にし、リュディアと同じように甘い、と呟きを洩らした。

二人の反応に、庭師見習いの少年は満足そうに笑う。


「たまには、こんなのもいいだろ?」


上等な菓子や高級な果物を食べ慣れている主人相手にこんな質素なものを、とエミーリアは思うが、不味まずくなかったのでうまく抗議の言葉が出てこない。


「た、たまには悪くないですわね」


リュディアはつんとまして見せたが、庭師見習いの少年はにこにこと笑っているので、気に入ったと気付かれているようだ。


「イェルクに教えてないでしょうね」


「え。ポチなら、こないだめっちゃ食べてたけど」


「あの馬鹿、食い意地張りすぎよ……!」


食欲旺盛な同僚が知ったら無作法を働くと危惧し、エミーリアは釘を刺そうと思ったが、既に手遅れだった。彼が自分用に摘んで袋に詰めていたのを、味見させたら全部平らげてしまったらしい。後で同僚を叱らなければと、眉間を押さえて怒りによる頭痛を堪える。


「まぁ、腹減ってたんだろ」


「ちょっとは怒ったらどうなの! 自分のものを取られたのよ!?」


「別にいつでも食えるし」


「大体、エルンスト家の敷地内のものを勝手に……っ」


「エミーリア、一先ひとまず落ち着いて。折角素敵なものを見せようとつれてきたのに」


「ハードル上げるなぁ」


庭師見習いの少年への指摘に熱が入りはじめたエミーリアの腕に抱きついて、リュディアは制止をかけた。リュディアの言葉に、何故か庭師見習いの少年が苦笑する。


「見せる……?」


「ええ。わたくしが気に入ったから、きっとエミーリアも気に入りますわ」


「一体、何を……」


「俺の造った庭」


「は?」


「この先にあんの」


表情を輝かせて微笑むリュディアに対して、庭師見習いの少年は微妙な表情を見せる。主人に期待値をあげられて、随分居心地が悪いようだ。彼でも憮然とした表情を見せることがあるのだと、エミーリアは内心驚いた。

彼の珍しい反応が面白くて、エミーリアは口の端を上げる。


「お手並み拝見といこうじゃないの」


「では、お先にどうぞ」


笑うなよ、と垣根を潜るための布を渡される。それを挑むようにエミーリアは受け取った。

拙い造りだったら笑ってやろうと心に決めて、垣根を潜る。


宝石のようにきらめく烏葡萄からすぶどうに覆われた噴水に見惚みとれるとは知らずに--


そして、造った彼ではなく主人が、勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。


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