一章

00.プロローグ




あ、コレ乙女ゲーだわ。


気づいたがどうしようもない。

とりあえず一息つこう。


「ちょっと、ちゃんと聞いてますの!?」


「ああ、聞いてるよ」


紅茶をずぞーと音を立てて飲んでいたら、二つ下の女の子に注意された。

問いに半分本当で半分嘘の答えを返す。だって、耳タコだ。


「それでロイ様が」


「ヘースゴイネー」


「まだ何も言ってませんわ!やっぱり聞いてないじゃないの!」


やべ、相槌が早かったか。

説教モードに入ったが、結局ロイ様を見習えという一言から元のロイ様自慢にシフトした。今度こそタイミングを間違えないように相槌をしつつ聞き流す。

俺が今いる世界が乙女ゲームだと気づいたのは、この『ロイ様』だ。なんか聞いたことある名前・見た目と立場だと思ったんだ。ま、見た目は聞いたことあるだけで一般人の俺は会ったことないけど。

関心がなさすぎて耳タコになるほど名前を聞いて、やっと乙女ゲームの攻略対象だと気付いた。

ロイ・レオナルト・フォン・ローゼンハイン、アーベントロート国の第一王子で君星の攻略対象。確かメインヒーローとかいうヤツだ。

君星は略称で、君だけのなんとかかんとかって長い正式名称があったが覚えちゃいない。そもそも男の俺が乙女ゲームを知ってるだけでも珍しい。

知っている理由は簡単だ、妹にクリアするのを手伝わされていたから。攻略キャラごとに違うミニゲームがあってその成績の如何でフラグとゆーのが変わるらしく、妹が苦手な分野を代わりにやってやったのだ。

今、俺に妹はいない。一人息子だ。妹は前世のハナシ。

しかし、解せん。

目の前の少女を見る。俺にはいらないロイ様情報の情報源。ロイ様ルートのライバルとして登場する公爵令嬢、リュディア・フォン・エルンスト。ゲームではロイ様の婚約者だったが、今はまだ婚約者候補の一人らしい。立場などから有力候補らしいからもう婚約者でいい気もする。

ここは彼女の邸の広大な庭の一角。茶の相手をしている俺はエルンスト家専属庭師の息子。庭師見習いをしている。

クリアを手伝った中でも、聞いてないのに妹が語る内容の中でも、ライバルん家の庭師ないし庭師見習いなんて出ていない。話題にすらあがってないレベルだ。


そう、俺はモブですらない。


状況的に転生してるっぽいが、モブですらないとかどういうコトだ。転生した弊害がない。

今、茶飲み相手をしているライバル令嬢もルートによっちゃ失恋するが主人公と正々堂々競った結果のため、没落したり、命を落としたりはしない。

雇い主のエルンスト公爵家に実害がないイコール専属庭師の俺ん家も安泰という訳だ。


俺、前世の記憶ある意味なくね?


理解した現状にしきりに首を傾げたが、ティーカップが空になった頃には考えるのをやめた。なるほど解らん案件に悩み続けても仕様がない。

とりあえず、目の前の少女にティーカップを持ち上げ一言。


「おかわり」


「それぐらい自分で入れなさいっ」


前世の母親のように叱られた。

側仕えのメイドも下がらせている状態とはいえ身分差的にアウトなことには突っ込まれない。不敬罪って、この国にあったっけ? あったらバレた時ヤバいな、俺が。

なんでこんなやり取りするまでになったか、未だに不思議だ。


第一印象最悪だったのになぁ。


確実にお互い第一印象最悪だった、一年前の出会い。

乙女ゲームに影響するかは判らんが、あの出会いで俺の人生は少しだけ変わった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る