第四話 真実

①-1


     1


「ありがとな」

 そう、口から零れるように言葉を吐き出し、安倉は膝から崩れ落ちた。

そう、景色なら、とっくのとうに変わっていた。そもそも、景色なんて見ることがなかったではないか。

周りのすべてが敵で、いつも警戒だけして、周囲に目を配る余裕すら、なかった。世界に目を向けさせてくれたのは、義堂だ。

 手で押さえた腹から、すべて流れ出ていくかのように力が抜けていく。

 頼むからそんな表情はするな。俺が惚れた女は、こんな状況でも動じない。すべての願望を叶える強い女だ。

 安倉はただそれを彼女に願い、見つめ続けた。


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