③-4
「答えなさいよ。本当はあなたが全部やりたかった、しかも最も大切な仕事だから、口惜しんでしょう」
立ち止まり、振り返る。もう、信藤の家からは見えないだろう。
「だったら、どうする」
「え」
義堂が固まる。
「今更言ったところで始まらん。そもそも、俺にできるようなことか? 小説家が、強烈な思い込みと熱量でやるから、意味があるんだろう。適材適所だ」
吐き捨てる安倉に、嬉しそうに義堂は駆け寄る。
「何々、できたらやりたかったんだ?」
「うるさい」
「お? これはやっと私の魅力に気付き始めましたな?」
「黙れ」
「またまたー。大丈夫よ、私はあなたに最も、感謝してるから」
急に、口調を変える。これがズルいというのだ。
「知っている。だから、もっとお前のためにしてやりたいんだろ」
だから安倉も、たまには言ってやった。
「え」
再び、固まった。
「ふん」
もう追いつかせることはない、と安倉は歩みを速めた。
「ちょっと、待って、待ってよー! もう一回、もう一回聞かせて!」
「うるさい」
追い縋る義堂を振り払って、進んでいく。本当に、彼らはひとを何人も殺しているのだろうか。
普通のカップルのようにじゃれ合いながら、夜の道に凸凹の影が消えていった。
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