③-3

 甲高い音がしてガラスにヒビが入り、中から間抜けな叫び声が聞こえた。

 もうひとつ義堂に石を渡され、安倉も機械的に再び振りかぶる。

「何をする!」

 窓が開けられたが、急に動きを止めることはできないし、止めるつもりもない。

 石は綺麗な軌道を描き、信藤の額にぶつかった。

「じゃあ、私をあそこに持ち上げて」

 何から何まで、当然のように指示を出してくる。しかし安倉も、言い返すことなく彼女を肩に担ぎ上げ、屋根の上に押し上げた。

 そして、するり、と義堂が中に入っていくのを見送る。

 どうせ、戻ってきたときに受け止めなければならないのだろう。安倉はそのまま塀の陰に隠れ、煙草に火を点けた。

 煙を吐き、暫くその行き先と、赤く灯った煙草の端を眺めた。

 信藤の姿を見るなら、この後義堂を回収してからだろうか。

 ゆっくり煙草を吸いながら空を見上げる。

 現実が変わったところで、この空が変わるわけでもない。

 だが、見る人間の眼が変われば、別の風景に見えるかもしれない。

 自分の見える景色は、違ったものになるだろうか。

 安倉がゆっくりと深く吸い込むと、上方から物音がして、もう義堂が窓から姿を現していた。

「じゃね」

 と窓の向こうに告げて、屋根から飛び降りてくる。

 音もなくそれを受け止め、地面に置く。信藤は、しばらく体を外に出し、義堂が去るはずの方面を見送っていた。

 ふたりで塀に隠れている間、彼女の香りと煙草の香りが、複雑に混じり合う。

 信藤が部屋に戻ると、安倉は塀に手をかけ、体をその上に踊らせた。

 窓の向こう側、明かりの下で一心不乱にパソコンに齧りついている男の姿がある。

 鬼気迫る様子は、先ほど義堂に焚き付けられたからか。

 それでも、義堂とタメを張れる器には、思えなかった。彼もまた、義堂に利用されているに過ぎない。

 少しの嘲笑と安堵、そして憐れみを持った後、安倉は塀から飛び降りた。

「何してんのよ」

「見ておきたかったんでな。うちのお姫様を神様にしてくれる奴のご尊顔をね」

「何、嫉妬?」

 義堂がにやにやしながら安倉を覗き込んでくる。

 安倉は鼻息ひとつで返し、歩き始めた。

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