①-3

 こういったタイプには小賢しい交渉など必要ない。ストレートに思いを伝えるべきだ。

 安倉の言葉に、犬飼は眉根を寄せる。

「どういう意味だ?」

「お前がいくら俺を探ろうと、真実に辿り着くことはない。だったら、こちら側で真実を作り出す方が、お前には向いてるんじゃないか」

「作り出すだと」

「お前のような優秀な奴は、警察にも正直少ない。できる時に、仲間にしておきたい」

「……」

 安倉の言葉に、犬飼が思考に入る。まだ警戒は解かないが、徐々に緊張感は減少していく。

「お前らの上は、上層部に繋がっているのか」

 やはり、理解が早い。安倉は沈黙でそれに答えた。

「そうだとしたら、ただ潰せばいい。何故、俺だ」

「何度も言わせるな。仲間が欲しい」

 安倉の言葉に、犬飼は眉をひそめた。

「既にいるだろう」

「こんな若造に軽々と篭絡される爺いどもが頼りになるとでも?」

「……だが平の俺が、それ以上に頼りになるか?」

「ひとりでここまで辿り着いた。上からの圧力も無視できる。それが、あんたの能力の証なんじゃないか」

 犬飼は血の混じった唾を吐き捨て、安倉を睨みつけた。

「だとしても、上に行く可能性のない人間を仲間にして、価値がないんじゃないか?」

「そんなことはない。警察内部で、裏の汚れ仕事を手伝ってくれる人間がいる。それ以上に心強いことはない。上の人間は、隠蔽はしてくれても、いざとなったら尻をまくって逃げるからな」

「それは、そうだ」

 苦笑いで口元を拭い、犬飼は腰を下ろした。

「それで、見返りはなんだ」

「真実を教えてやる」

「ああ?」

「それが知りたくて、利益も報酬もないのに俺を追ってきたんだろう?」

「……」

「そしてそれ以上に、刺激的なプロジェクトに参加させてやる。組織で燻ぶってるお前に、生きる意味を与えてやろう」

「ガキが、随分上から目線だな」

「お前のしたいことに、年齢が関係あるのか?」

 安倉は、何でも知っている、とでもいうかのように、口の端を上げた。

「……俺のことを、どこまで知っている」

「さあな。だが俺は、どうも他人の負の理想を暴発させるらしい。お前には、それがない。深いところに隠されているんじゃなく、ないんだ」

「それが、どうした」

「つまり、お前は見かけと行動に反して、高邁な理想を持った潔癖な男だ、ということだよ」

「はあ⁉ だとしたら、そんな不正に手を貸すか?」

「それが、現実を超えた、更に先を映す真実の姿だったとしたら?」

 犬飼は、ゆっくりと首を振った。

 もう、彼らを追っている時点で、虜になっていたのかもしれない。

「いいだろう、その話、聞かせろ」

 犬飼が煙草を口にして、火をせがんだ。

 安倉は、一瞥して点けてやることはなかった。


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