③-1


     3


「気付いたんじゃないか」

 仰向けに落ちた多賀の顔は、幸運にも潰れることなく、綺麗なまま街灯に照らされていた。透き通るような肌に薄っすらと笑みを浮かべ、満足そうにすら見える。

「何に?」

 義堂が、振り返ることなく問うた。

「本当は、お前が更に上をいっていることを、望んでいた自分に」

 溜息を吐き、義堂は踵を返した。無言で、安倉の横を通り過ぎていく。

 多賀翼は、その日、自ら死を選んだ。

 下で見守っていた安倉は、屋上で、ふたりの間でどんな会話が交わされたのか、知る由は無い。

 しかし、その表情から、あの時の疑問が解消されたのではないか、とうかがい知ることはできた。

 義堂の後ろ姿を見送りながら、安倉は横たわった翼の死体に目を移す。息を吐くと、横に跪いた。

首を振り、多賀の頭を持つ。いくら義堂が多賀に顔を似せたとはいえ、これほど綺麗に残っていては、怪しまれる。

 アスファルトに打ちつけ、隠蔽工作をする。

 その他にも、遺留品を用意し、自分たちが何か残していないかを確認する。

 すべてを終え、真っ暗な空の下、安倉は改めて死体を見下ろした。

「多賀、義堂は、嘘になど取り憑かれていない。あいつは、常に、名前通り、〝真実〟を追い求めてる。嘘に塗れ、真実が見えなくなった〝嘘憑き〟はお前だったな」

 雨が降り出してきた。冷たい水に打たれ、赤い血がアスファルトに流れていく。

少女は、何も応えない。

安倉はまたひとつ息を吐き、喧騒が待つ街並みへと、裏道から戻っていった。

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