②-3

「いつやる」

 義堂とふたりきり、いつもの公園でふたり、缶コーヒーを片手に街灯に照らされていた。

 多賀がホテルに住まうようになり、ふたりでの密議が必要な際に適当な場所がなくなった。それでまた、あの公園で、これからの予定を確認しあっていた。

「クリスマス」

 ややあって、義堂がはっきりと答えた。安倉が、頷く。

「その日なら、浮かれた街に注意がいって、寂れた街は放っておかれるだろう」

「キリストの生まれた日だから」

 関係の無い答えが返ってきて、安倉は眉根を寄せる。だが、暫しして、言いたいことがわかった。

「その日が、〝義堂真実〟の生まれ変わりとなる〝多賀翼〟が誕生する日、というわけか」

 義堂は頷き、悪戯っぽく微笑んだ。

「物語としては、悪くないでしょ?」

「ちょっと芝居がかりすぎてどうかとも思うがな」

「何よー」

 頬を膨らます。

「でも、わかり易すぎるくらいのほうが、こういうのはいいのよ。世間が騒ぐクリスマスという明の裏で、人の希望を叶えるキリストのようだった少女が死ぬ、という暗。ストーリー的に申し分ないし、話題になること間違いないわ」

 別段、文句があるわけではない。

「好きなようにしろ」

 安倉が決めるのではない。安倉は彼女が作る景色を、見たいだけなのだから。

「するけど」

 義堂は唇を尖らしてから、安倉の胸に人差し指を当てた。

「いーい? 貴方は私と表裏一体。影なんだから、私にばかり責任を押し付けないで、一緒に考えてよね」

「影は、付き従うだけだろう」

「だったら、月と太陽! いいから、貴方も見たい光景なんでしょう? 少しくらい、自分で動いてよ」

 見せてやる、と言ったのは自分の癖に、と思わないでもないが、確かに彼女ひとりに決定を背負わせすぎていることもあった。

 安倉は笑い、ポケットに手を入れる。

「それじゃあ、俺が、お前の生き返る日を決めてやろう」

「え?」

 今度は義堂が、眉をひそめる。ああ言っておきながら、勝手に決められるのは嫌なのだ。苦笑しながら、続ける。

「イースターさ。復活祭に、掛けてやる」

「無理よ。私が甦るために、私の物語を書かせなきゃいけないんだから。三ヶ月じゃ、間に合わない」

「だったら、来年のクリスマスだな」

 安倉はその時を想像しながら、久々に煙草を取り出して火を点けた。ぽう、と赤い灯が灯る。

「その時までに、お前に相応しい場所を用意してやる」

 安倉は大きく煙を吸って、吐き出した。煙が、宙を舞う。

「……約束よ」

 そう言った義堂の瞳は、煙の向こう側でもわかるほど、輝いていた。義堂は頷き、煙草を地面に落として踏む。ひと吸い、思考を単純化するために欲しかっただけだ。

「誓おう」

 ふたりの影が、重なった。

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