②-4

 靴を履き、出る前に振り向いて、唇に人差し指を当てて、義堂は北上にウインクをした。

「忘れないでね」

 その仕草が、何を引き出し、どんな効果があり、そしてあの男が求めているものだ、ということを充分に理解している行動だった。

「あ……ああ!」

 喜び勇んだ男を置いて、義堂はもう外の人になっていた。多賀も慌てて靴を履く。だが、どうしてかうまく踵が収まらず手間取っている多賀に、ぼそり、と北上が呟いた。

「君たちは、どこか似ているな。体型も」

 北上は、よく義堂のうなじを眺めていた。丁度靴を履く姿勢で、多賀もその角度から眺められて、そう感じたのだろう。

うすら寒いものを感じ、多賀は素早く一礼すると、目をわせることなく外に出た。

「あー疲れた」

 冷たい冷気の中、腕を伸ばして義堂が笑った。

「真実は、どうしてあの人のところに行くの?」

 小走りで横に並ぼうとしながら、多賀は訊く。

 だが義堂は、横目でそれを見てにこやかにしながら、歩を緩めない。

「何? 答え合わせ?」

「え」

「もう気付いてるんでしょう? 好きよ、あなたのそういうところ」

 そう言って、義堂は背筋を伸ばして歩いていく。

「私の未来は、この先にある。立ち止まりたくないの。行くからには、最短距離よ。もっともっと、やりたいことがあるから。ついてきてくれるわね?」

 多賀は、興奮して何度も頷いた。

 この女性に、共に歩むことを許され、望まれている。

 これまでの人生になかった充足感。

 これを捨てることなど、もうできない。

 義堂と多賀は、光を溢れさせる駅構内に、呑み込まれていった。


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