②-3

 それが勢いがありすぎたのか、ふたりが目を丸くして多賀を見ている。北上はまるで、居たのか、と言うようだ。

「え、あ、ごめん、なさい」

「あはは、大丈夫よ。先生が嘘吐くのが悪いんだから」

 北上は、何か気まずそうに頭を掻いた。何を言ったのか聞いていなかったが、急に、響くようなあの低い声。きっと、義堂を怒らすような調子に乗った無神経なことを言ったに違いない。

「それで? 先生」

「あ、ああ。まあ正直に言うと、予備校講師に特別なコネなんてないよ」

「そ。それならいいわ」

 澄まして義堂は応え、勉強に戻る。その白い肌を見ながら、多賀は確信していた。先ほどの言葉と対となるもの。

 彼女が求めているのは、〝真実〟だ。

 彼女の名前通り。

 完全なる自己犠牲。期待に応えたい、という思い。

 人は他人に何を求めるのか。そもそも他者は必要なのか。

 多賀と義堂は、一心同体なのだ。そう彼女は最初から言っていたではないか。

 そんな彼女が、犯罪に手を染めてまで求める〝真実〟とは? 長崎達の一連の事件の目的は?

 そして、彼女の本当の狙いは――。

「翼、行こ」

 立ち上がった義堂に声を掛けられて、現実に引き戻された。

「え、あ、うん」

 今日はどもってばかりだ。

 頷いて、机の上を片付け、鞄を手に取った。

「じゃあ先生、さようなら」

「もう、いいのか?」

「はい。今日は、これで充分です」

 つれなく言って、後ろ髪を引かれる、という言葉は彼女の中に存在しないかのように玄関へ向かう。

 多賀も、慌ててその後に続いた。

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