②-2


「だから、ここにxを代入して……」

 多賀は、三人でコタツ机を囲み、普通に北上に勉強を教えてもらっている義堂、という状況を物珍しげに眺めていた。

 真剣に問題に向き合い俯く義堂の横顔は、美しい。

 それに見惚れながら、義堂の後頭部を斜め四十五度の角度で見下ろす北上の表情にやましいものが浮かんでいないか見張る。

 北上は、時折、欲情のようなものが見えるのだが、瞬時にそれが別のものに掻き消されているかのようだった。

 そして、それなのに完全に義堂に虜にされているのか、多賀にはほとんど目もくれない。

 降りてくる髪が邪魔なのか、掻き揚げてうなじを無防備に晒すのが、またいやらしい。

 義堂は何を考えてこんなことをしているのだろう。多賀は不思議でならなかった。

 義堂には、親がいないため満足に勉強ができず、好意を頼って北上に個人授業をしてもらっているのだ、と説明を受けていた。

 確かに、義堂には親がいなさそうだ。

 ただ、お金は充分に持っていそうだったし、北上に教えてもらわなくても問題ないのでは、というくらい賢い。

 これには、何か目的があるはずだ。

 放っておかれているのをいいことに、多賀は日中に掴めそうになった義堂の目的について、思索することにした。

 義堂は、ただの人気者ではないし、ただ優しいだけではないようだ。その証拠に、多賀に酷いことをした奴らは、軒並みそれ以上の目にあっている。

 では、多賀への愛情は、無償のものなのか。

 それも、違う気がする。

 賢い彼女は、何か目的を持って、この一連の行動をしているように思えてならない。普通にしていたら、優秀な成績を収めて、弱いものにも優しく、最強の優等生として順風満帆な人生を歩めるだろう。

 だが彼女は、積極的にその道を踏み外している。が、その癖それを他人には見せようとしていない。

 それを見ているのは、多賀と安倉くらいだろう。

「他人のために」、「多賀と一心同体」、「他人の興味」。

 じわりと、輪郭が浮かび上がってきた気がした。

 じっと、それを形作ろうと考える。

「嘘吐き」

 急に、義堂の声が聴こえて、顔を上げた。

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