②-1


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「え……なが、さき?」

 その足が、ホテルの柔らかな絨毯を踏みしめたが、持ち主である者の上半身は、部屋の人間を見て固まってしまった。

 親の元から連れ去られた多賀は、彼女が実家とは別に塒にしている、というホテルの一室へと連れてこられていた。

 そしてそこで、確かに、自分が殺したはずの、同窓生、それと瓜二つの男が、中で椅子に座っていたのだ。

「大丈夫」

 後ろから来た義堂に肩を抱かれ、そのまま部屋の中に連れて行かれた。

 良くみれば、長崎らしき男の隣りには、安倉が立っている。それだけで、急に安心できた。

 そして近寄ってみると、どこか雰囲気が違った。

「あれ、あなた――」

 気まずそうに俯いている男子は、よく見れば見たことのある男だった。確か、そう、長崎と一緒にバンドを組んでいて、安倉に連れ去られ、一緒に消えた――。

「そう、志摩君。でも今は、この人が長崎君なのよ、ね、長崎君?」

 うふふ、と笑って応えた義堂が、その椅子に掛けた男子へ首を傾げてみせた。男子は、慌ててこくこくと首肯する。

「えっと……どういうこと?」

 当然起きていることの意味がわからない多賀が質問するが、義堂はどこ吹く風でホテルの窓辺へと寄っていった。

「わー、綺麗な夜景。ね、翼も来なよ」

 手を伸ばされては断る術を持たない。多賀はふらふらと男の横をすり抜けて、義堂の横に立った。

 ふたりして、窓ガラスに額を寄せ、下界を見下ろす。

「ね、素敵じゃない?」

 確かに、黄金に煌く光は、美しかった。

「ただ、光の下で何が行なわれているか、を無視できれば、だけどね」

 自分の考えが読まれたようで、驚いて義堂を見る。いや、もう驚いてはいけないのだ。彼女は、そういう人なのだから。

「そう。それに、だって私と貴女は一心同体だからね」

 そうウインクしてみせて、椅子の男子の許に戻った。

「さて、というわけで、長崎君を作ってみました」

 椅子に両手を置いてから、今度は広げた。そんな自信満々に開陳されても、やはり何が何だかわからない。

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