②-2

 眉根を寄せる多賀に、義堂は期待に満ちた輝く瞳を向け続けた。

「えっと……カモフラージュ?」

「うーん、惜しい。実験よ、実験。人は、どこまで他人に興味があるのか」

 そう言って笑う義堂は、楽しそうに言っているのに、どこか寂しそうに見えた。

「意外と、他人は光の下で何が行なわれているかなんて、興味がない。気にしてるのは、家族くらいじゃないかしら? 後は、自分の世界を彩る景色くらいでしかないのよ。それを、確認したかった。貴女と、私のように、世界に自覚的な人間は、少ないわ。だから、長崎君は、死んでないことになった」

 言っていることを理解するのに時間がかかった。

 自分が世界に自覚的かどうかは置いておいて、志摩を長崎に仕立て上げることが可能か、実験をした、と義堂は語っているらしい。

「整形?」

「そう。勿論、雰囲気が似ていることは大前提だけど、仕種もなるべく気をつけてね。そうしたら、あら簡単。長崎君の目撃情報は巷に流布し、学校で死んだ生徒の身元は不詳となってしまいました」

「でも、他にも歯形とかDNAとか……」

「そう、歯型は念のため潰しておいたけど、DNAを調べられたら、困るわよね」

「え、じゃあ」

 頷いて、義堂は笑う。

「でも、今は死んだのは、警察内では志摩君になってるみたい。それが覆っても、別に私たちは困らない。ただ、彼はこうして生きている。うふふ、誰が生きていて、誰が死んだのかしら」

 嬉しそうな義堂は、俯いている志摩の顔を覗きこんだ。

 突如、志摩がきっと顔を上げて義堂を睨む。

「お前が、お前が……!」

「あら」

「うわー!」

拳を振り上げ、義堂に襲い掛かる。勿論、その拳は届くはずがなく、安倉によって首根っこを掴まれ、反対側の壁にまで投げ飛ばされた。

「ごめんね。でも、先に酷いことをしたのは、あなたたちでしょ? これは、当然の報いよね」

「嘘だ……。ここまでされる、謂れは……」

「それを決めるのは、被害者じゃない? ねえ、翼?」

 急に話を振られて、戸惑った。しかし、義堂から向けられた瞳を見て、勇気を得る。

「もちろん。私は許してないし、私以外にも被害者は絶対いる。あなたたちは、許されちゃいけない人種だわ」

「そういうこと。だから、私たちに見つかったのが運の尽きと思って、諦めて頂戴。大丈夫、これからも実験に付き合ってもらうだけだから、死ぬことは無いし」

 さらりと義堂は笑った。

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