②-2


 翌日から、義堂により細かい指示がLINEに届くようになった。

 背筋を伸ばし、服装を変え、口調を変える。すべきことも、義堂からの指示と思えば、気が楽になった。

 長崎は、あれ以来学校に姿を見せていない。彼の友人だったバンドメンバーふたりも、同様だ。クラスメイトたちは、彼らが暴力団や半グレと繋がりがあったからだ、などとまことしやかに噂をしていたが、多賀も実際どうなったのか知らなかったので、適当に流しておいた。

 あの日、義堂は多賀に告げた。

 彼女が言う通りにすれば、多賀は望むような自分になれる。多賀は今、他人に頼られることが望みだが、いずれ、自らの足で立つ日が来る。多賀はただ、望むようにすればいい。それを義堂が汲み取るから、安心して身を委ねろ、と。

 なんと甘美で魅力的な言葉だろうか。誰もが、自分で決めなければならないから、この世は迷う。

 それを、多賀の意思である、と言いながら、決めてくれる。

 それが間違っていたら眼も当てられないが、多賀はこの義堂という女性を、心から信じ切っていた。

 それは、窮地を救ってくれたからだけではないだろう。会って数秒で自分の思いを言い当ててくれたこと、自分でも気付いていなかった願望を汲み取ってくれたこと、すべてが、彼女を信頼させたのだ。

 そしてその信頼は、間違っていなかった。

 日を追うごとに、多賀の元にクラスメイトが擦り寄ってくる。

 ――多賀さん、前から綺麗だったけど、どうして急に綺麗になったの

 ――多賀さん、何だか話しやすくなったよね

 ――多賀さん、今度勉強教えて

 ――多賀さん、友達になって

 人に自分の名前を呼ばれるのが、こんなにも気持ちがいいものとは。

 そして、そう呼ばれる毎に、これが真の自分なんだと、信じられた。

 もう、彼女に導かれる必要は無い。

 自信が深まっていくと、そう思うようになった。

 人が驕るのは、こんなにも早いものなのか。手に入れるのが早いと、その価値も薄くなるというが、そのくらい、あっという間の出来事だった。

 だから、多賀は義堂を切った。

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