②-3

 導かれるようになってから、たったひと月のことだ。

 彼女に頼らなくても、生きていける。

 そう、決めた途端、多賀の周りから人はいなくなっていた。

 最初は、徐々に、徐々にだった。

 だが、箍が外れると一気にいなくなる。気付いたときには、もう手遅れだった。

 曰く

 ――ウザい

 ――調子に乗るな

 ――恐い

 気がつけば、元の通りに戻っていた。あの一ヶ月はなんだったのか、というくらい、クラスメイトも冷淡で、皆で同じ夢を見ていたのか、というほどだった。

 何が悪かったのか。

 自分ではもうわからなかった。

 彼女しか、いなかった。

 自分の都合で頼って、大丈夫だと思ったら勝手に切って、そしてまた辛いときだけ頼ってくる。

 そんな自分勝手な多賀を、義堂はどう思うだろう。

 不安しかなかったが、多賀は藁をも縋る思いで、彼女に連絡をした。もう、あの快感を知った自分には、今の自分を受け入れることは到底できなかったのだ。

「あ、あの、義堂さん……?」

「そろそろ来る頃だと思ってたわ」

 そのひと言に、今度こそ完全に彼女に心臓を掴まれた。

 もう、多賀の生殺与奪権は、義堂が握っているのだ。

 それをはっきりと自覚した多賀は、恥も外聞もなく、こう言っていた。

「義堂さん、私を、助けて」

「いいわよ」

 その言葉に、心が軽くなる。

「ただし、条件がある」

 一気に心臓が縮こまる。何でも聞く、と言うと、義堂は冗談めかしながら囁いた。

「貴女はきっと、人気が出たら、また私を切る」

 そんなことは、と言おうとする多賀を遮るように、義堂は続けた。

「貴女は、そういう人よ。いえ、少なくとも、今回の一件で、私はそう認識した。人の認識を覆すのは、なかなか難しいの。それくらい、わかるわよね」

 今回の顛末に関しては、自分の所為でしかない。多賀は、大人しく頷いた。

「いい? これから私が言うことを実行して。それがうまくいったら、私はまた貴女を信用してあげる。ただし、失敗したら――」

「大丈夫、必ずうまくやるから!」

 それ以上のことは、聞けなかった。失敗したらどうなってしまうのか、考えるだけで恐かったのだ。

 電話の向こうの義堂はくぐもった声で笑い、それから、指示の説明を始めた。

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