①-2

 疑問を勘付かれたのか、長髪の男は自分を指差して笑った。冗談だったのかもしれないが、多賀に素直に頷かれ、天を仰ぐ。

「あー、ほんと多賀って他人に興味ないのな」

「ごめんなさい……」

 そんな風に思われているとは、知らなかった。

「いや、そのクールさがいいんだよ。今俺たちバンドやってんだけどさ、華がないんだよな。それで、多賀にボーカルでも何でも、やってもらえたらいいな、って考えてるんだけど、どう?」

 唐突過ぎる。そもそも、バンドをやるのに、華優先ではおかしいだろう。歌も、音楽の一部だ。

「いや、嘘。ほんとはお前の歌声、授業で聞いていいな、って思ってたんだ。なあ、うちらのバンドでボーカルやってくれないかな。お願い!」

 長髪は、顔の前で手を合わせて、拝んでみせた。それならまだ、納得がいく。でも、そんなに自分の声はいいものだろうか。多賀には自信がなかった。

「俺らのバンドに合うんだ。頼むよ。一度でいいから、まずは練習に来てみてくんねえ?」

 一度くらいなら、やってみてもいいかもしれない。多賀は、小さく首を引いた。

「マジで! ありがとう! 俺の名前は、長崎優介。名前くらいは聞いたことあったろ? よろしく」

 手を差し出された。大きな掌、それでいて細く長い指。

 おずおずと多賀が手を差し出すと、ひったくるように握られた。

「嬉しいね。これで、うちらも一気に人気になるな!」

 長崎の笑顔はとても爽やかで、多賀はなんだか急に恥ずかしくなってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る