第二章 多賀翼
第一話 同窓生
①-1
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「ねえねえ、あそこ行った?」
「え、もしかして新しく出来たアイスクリーム屋さん?」
「そう! 私行ったの!」
「いいないいな! どうだった?」
「それがね――」
教室の一番奥にいると、どこでどんな会話が行なわれているのか、よくわかる。
女友達同士で他愛の無い会話をしている人、男女で意識しあいながら話している人、男同士で馬鹿みたいなこと言っている人。ただ、その中に自分が入ることは決してない、ということも、同時に突きつけられる。
多賀翼は、そんな教室の様子を背筋を伸ばし、ただ眺めていた。
自分が特殊な容姿をしているのは、よくわかる。それでからかわれたくなくて、強がっているのも。
でも、だからと言って多賀は孤独が好きなわけではない。
女子たちの他愛の無い会話に加わりたいと思うこともあるし、趣味の合う友人と盛り上がりたいとも思う。
ただそれ以上に、どう見られているかが不安で、強がってしまうのだ。
そんな自分が面倒くさくて、結局自分の殻の中に閉じ籠もってしまう。
このクラスの中で、多賀と目を合わせて喋ったことがある人間がいるだろうか。
そんなことを思いながら、多賀はゆっくりと顔を横に向け、外を眺めた。
「多賀」
だから、後ろから声を掛けられても、それが自分に向けられたものとは気付かず、彼女は微動だにせずじっと校庭の元気な生徒たちを見つめ続けていた。
「おい、聞いてんのかよ、多賀」
「え?」
もう一度話しかけられて、やっと自分のことだと認識し、振り返る。
長髪を弄りながら、男子生徒が立っていた。
「何?」
「お前さ、バンドとかやんねえ?」
いきなりで、何を言われているのか理解が追いつかなかった。どうして多賀なのか、何故バンドなのか、そもそもこの男は誰なのか。
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