第二話 塾
①-1
「あいつ、必死だったよな」
信藤の質問に衒いもなく答えたのは、塾の帰り、夜のコンビニのイート・イン・スペースでだべっていたグループの、中心格であろう人物だった。
信藤が真正面から話を聞きに行っても知らない人間だし、怪しんでまともな情報は得られないかもしれない、と思ったが、あにはからんや、自分の著作と学生証を見せて身分を明らかにして目的を話すと、彼らはすぐさまぺらぺらと喋り始めてくれた。
信藤が小説家、ということもあるだろうが、それより、話したくて堪らなかったのだろう。
「そうそう、私たちのグループに入りたがってね」
「暁清なのに、背伸びすんな、って感じ?」
「わかるー。媚売って留まろうとして」
「そもそも成績が良くないんだから俺たちと居ても辛かっただろうにな」
そこで、何がおかしいのか爆笑する。
信藤はと言えば、ここでも自分が知らない、信じられない義堂の姿を見せられ、愕然としていた。
彼女が、頭が悪い? 彼女が、媚を売っている?
全て、想像できなかった。
彼女は、信藤たちが通う暁清高校でも圧倒的優秀な生徒だったし、高潔で媚を売るどころか、向こうから人が寄ってくるくらいの人間だった。
それが、どうだ。
もしかしたら、彼らは別人の話をしているのでないだろうか。同姓同名の義堂真実がこの世にはいるのかもしれない。
「だから自殺したんだろうしね」
「死ぬこたあないのにな」
だが、残念ながらやはり同一人物のようだった。
「ま、顔は良かったから付き合う分にはありだったけどな」
「またそういうこと言ってー。でもあの子、実はヤンキーだった、って噂あるよ?」
「え、マジで」
「一応グループに入れてあげててよかったー」
「それを隠そうとした結果、必死だったのかもしんねえな」
「健気―!」
内輪だけで盛り上がっているのに付いていけない。信藤の話を聞く気になったのも、ネタとして話したくても不謹慎と思い留まっていたのだろう。それを、発散できると踏んだから、よく知らない信藤のような人間でも、気にせず取材を受けたのだ。
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