⑥-2
「それに、小説家って、凄いよね。何もないところから、人間を、キャラクターを生み出せる。尊敬してるよ」
自分の価値を、本当に理解してくれる人と出会えた。
だから、彼女を崇拝し、彼女を信じ、彼女の本当の姿をここに残そうしているのだ。
しかし、今自分の前に見せられている彼女は、そういうものとはまったく違う、俗物としてただ人気のある、ひとりの普通の女子だった。
普通の女子であることが悪いと言っているわけではない。ただ、こと義堂に限って言えば、そうであってはいけないのだ。
彼女は、そういったものに縛られない圧倒的な存在感を放っていた。
もし、貶めて、自分と同列にしたい、と思っても、敵わない、それができない人物だったのだ。
それが思い出となった途端、彼らは責められないとわかったら好き勝手に自分と同列に語り、そのことで悦に浸っている。
そうとしか思えないのだが、これだけ全員が全員そのような具合だと、逆に自分だけが間違っているような感覚に陥ってしまう。
彼女は、自分にだけ、強い姿を見せていたのだろうか。
だがそう思うこともまた、彼女を貶めることにならないか。
では、自分はどうすればいいのか。
更に情報を集め、自らの説を補強する以外、ないではないか。
信藤は、ノートを閉じ、顔を上げた。
まだ、教室には数名の生徒が残っている。談笑したり、宿題をしたり、眠ったり。
ひとりの級友がいなくなっても、日常は変わらずに過ぎていく。
ただその風景の中に、花瓶に花を生けられた机がひとつ追加されるだけだ。または、ぽっかりと空いた空間が、奇妙に避けられて存在するだけか。
そこに、彼女の存在を、刻み付けてみせる。
信藤の中に、暗い炎が灯った。
外野が何と言おうが、自分が知っている彼女が本物だ。それを、わからせてやる。知らしめてやる。
内側を激しく燃やしながら、信藤語は教室を後にした。
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