①-2
「その話は、どこで?」
それでも一応、最後まで聞けることは聞こうと、信藤は質問を重ねる。
「えー、どこだったかなあ。多分、中学の頃の同級生か誰かだったと思うよ」
「高校デビューかー。痛いねえ」
「努力を笑ってあげちゃ駄目だよ」
「努力しなきゃいけない時点で、無理があった、ってことだと思うけどね」
「まあね。無理は駄目だよ。結局死んじゃうんだから」
無理などしていなかった。彼女はいつも、あくまでも自然体だった。どうしてそんな風に記憶を改竄できるのか、不思議でしょうがない。溢れ出る怒りを押さえ、信藤は続けた。
「何か、彼女のエピソードとか、あるかな。その、必死だったことに関して。勉強とか、君たちに気に入られようとすることとか、何でもいいんだけど」
「さてね。何かあったかな」
「無理して、塾の特待生になってたみたいだけど」
「へー、意外。そんなに成績良かったっけ?」 「覚えてねえなあ。名前、出てたっけか」
彼らの塾は、テスト毎に順位と名前が発表される仕組みらしい。
「何聞いても、横でにこにこして『うん』って言ってた覚えはあるなー。お前に意見はねえのかよ、っていう」
「わかるー。ここに居られればいいんです、的なな」
「もう、それくらいにしてあげたら? その子、震えちゃってるよ」
信藤は、拳を握り締め、俯いて固まってしまっていた。指摘されても、その姿勢を崩せないくらい、怒りは頂点に達していたので、その指摘で彼らが顔を見合わせ、眉をひそめあったのは、クールダウンのためにはありがたい時間だった。
大きく息を吐き、顔を上げる。
「ありがとう。参考になった」
「ま、本当のことを書きたい、っていうから言ったまでだから。美化しようとすりゃ、できねえこともねえけど、なあ?」
リーダー格が同意を求め、周りが頷く。
「わかってるよ。助かった。僕の記憶の中の彼女を描くだけじゃあ、意味が無いからね」
「そ! そういうことだよ! な、良かっただろ?」
我が意を得たり、というように身を乗り出すリーダー格に、顔を寄せ、ただ見つめた。
「な、何だよ……」
信藤は黙って踵を返し、コンビニを出た。
もう、彼らから聞きだせる話はないだろう。
信藤が必要なのは、上辺だけの関係でない、学校の外、塾での本当の友達の証言だった。
彼らは、気付いていないだけで、義堂によって優しく見守られ、自尊心を満たされていたのだ。だから、今、こうして彼女の過去を勝手に作り上げて語らないと、結束を保てなかったのだ。自尊心が、ぐらぐらと揺らいでいるのだろう。
信藤は通りに目をやった。塾で自習をしていたのだろう。まだ塾のあるビルから出てくる生徒がいる。その中に目標を定めると、脚を踏み出した。
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