③-2
「何それ」
山田の言葉に、雨宮が食いついた。少し怒っているようにも見える。彼女と山田は付き合っていただろうか。自分が知らないことがあるのが、許せない様子だ。
「別に、具体的なことを知ってるわけじゃないよ。ただ、口振りからそう感じたってだけだけ」
その言葉に、安心したように息を吐く。
「何だ、そっか。それなら、私もあるな。真実(まみ)って、表面は明るいんだけど、根は暗いところあったよね」
「ああわかる。俺もチームのことでむしゃくしゃしてたとき、何気なく言ってくれたことが俺の感情をよくわかってくれててさ。明るいだけじゃなくて、そういう負の感情もわかってくれるやつだったよな」
サッカー部のキャプテンだった錦戸が知った風にうんうんと頷く。
「俺は……女関係でちょっと面倒なことになってたときに、他とは違うこと言ってもらってスッキリしたな。浮気してたんだけど、好きって気持ちを本気で考えたことはあるのか、って。可愛い、セックスしたいだけが恋愛じゃない、ってさ」
「何それ、サイアク」
「お前、ほんとそういうとこあるよな」
「反省したほうがいい」
折角の告白を三人に一斉に責められて、久慈は少しむすっとする。
「わかってるよ。あいつに言われて、それ以降そんなことしてねえ」
結局ワイワイと、四人は話に盛り上がる。そんな様子を冷めた目で見つめながら、信藤は
――何だこの、上辺だけの仲良しこよしは。
と苛立ちを溜めずにはいられなかった。彼らは、結局自分が傷つかない話題を提供し、義堂を思い出として、自分を着飾っているに過ぎない。
そもそも、義堂はそんな浅い悩みなど、歯牙にもかけなかったはずだ。彼女はもっと、ことの本質を見抜き、それを伝える力がある。それとも彼ら用に、薄っぺらい慰めをしていた、ということだろうか。
それを都合のいいように自分の思い出のエピソードにして、こいつらは、自分のために彼女を貶めている。
信藤はそう断ずると、ノートを閉じ、頭を下げた。
「ありがとう。それじゃあ」
「おお、こんなもんでよかったのか?」
「ああ。もう充分だ」
応えに満足して思い思いに義堂の思い出を語り合う四人を置いて、信藤は自分の席に戻った。
義堂は、あんなに光り輝いていたのに、居なくなった途端、クラスメイトの満足のために使われてしまうような存在になってしまうのか。彼女が生きていたら、彼らはきっとこんな話を、彼女に申し訳なくて、恥ずかしくてできなかったはずだ。
死ぬとは、こういうことなのか。
信藤は歯噛みをしながら、彼らの話を聞き取ったページを破り捨てた。
そして、次なるターゲットへと目を移す。
仲が良かったと自分を勘違いさせられる人間に話を聴くのが間違っていたのだ。
信藤は、クラスの片隅で、俯きがちに本を読んでいるひとりの女子へと、今度は足を向けた。
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