③-1


「義堂がどんな奴だったかって?」

 信藤が意を決して問い掛けたのは、昼休み、そこだけ陽が当たっているかのように輝き、窓際で集まっているグループだった。

 サッカー部のキャプテン・錦戸優介、野球部のエース・山田拓真、バスケ部の長身ガード・久慈亮、サッカー部のマネージャーの雨宮聖子。これに義堂を加えた五人が、このクラスのヒエラルキーの頂点だった。

「何でお前にそんなこと話さなきゃなんねえんだよ」

 最初に眉をひそめた山田が、続けて問い質す。信藤はただ、思いを伝えるだけだ。

「彼女を主人公にした小説を書きたいんだ。このクラスの奴は、多かれ少なかれ、彼女に救われてただろう? そんな彼女に恩返しがしたい。僕ができるのは、こんな方法しかないんだよ。エピソードを集めれば、彼女という存在が、現実に浮かび上がってくるような、そんな気がするんだ」

 いつもの信藤なら、山田に詰め寄られただけで声も小さくなって縮こまってしまうだろう。そんな彼が淡々と言い返すので、山田も戸惑ったような表情になる。

錦戸がバトンを受け取って問い掛けた。

「お前が、正確に義堂を書ける根拠が、どこにあるんだよ」

「だから、こうやって取材をしてるんだろう。忘れたかもしれないけど、仮にも僕は小説家だ。そして、真摯に彼女の姿を書き起こしたいと思っている。本の中に。そこは、僕を信じてもらうしかない」

 信藤が錦戸の言葉に反論すると、もう誰も言い返せないようだった。

「売れねえ作家が頑張るねえ。まあお前もそれを気にしてるんだろうけど、真実はそんなの気にもしなかったもんな」

 錦戸が茶化すように負け惜しみを言い、知りもしないことをわかったように言ったが、信藤は黙ったまま見つめていた。それに根負けしたように溜息を吐くと、

「……なんか、あるか?」

 と久慈に訊いた。結局、彼らも話したいのだ。その切っ掛けを待っていたにすぎない。

 昼休み、義堂が居なくなった教室は、どこか空虚で皆ぼんやりとしていた。それは、触れてはいけないような、でも皆がその寂しさを共有しているような、不思議な時間で、いつもなら信藤も彼らに声などかけられないだろう。だが、彼らもまた、時間を持て余していたから、隙があったのだ。

「俺は、義堂に慰められたことがあるよ」

 まず、山田が口を開いた。元から細い目を更に細める。

「あいつは、明るいようで人の傷にいち早く気がつける奴だった。それは、あいつも、同じように傷を抱えてたからだろう」

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