②-2

 仁科が語り出したのは、この高校で毎年春に行なわれ、各クラスで出し物をしなければならない、恒例のイベントとのことだった。一年生はまだ入りたてで仲もあまりよくないため、適当な出し物でお茶を濁しながら、これを機に仲良くなるのが通例だ。それを、義堂は「皆でやる、初めてのイベントだよ!」と盛り上げ、結果最優秀展示を獲得したのが、〝一A喫茶〟だった。喫茶店などどこのクラスも考えそうなものだが、義堂は手間が掛からないよう、各自の親の職業を活かして、そのコスプレで接待し、親から仕事内容を聞いて、客に説明しながらその仕事に関連した商品を出す、というコンセプトにしたのだ。それが親の心を捉え、また受験生たちにも将来の職業選択に役に立った、と評価された。

「最終的に皆いい思い出みたいに言うけど、途中は文句も散々言ってたじゃない? それの矢面に立たされたのが、どうしてもやらなきゃいけない私だった」

 仁科は少し寂しそうに笑う。本当は言いだしっぺの義堂がその役目を引き受けなければならないはずなのに、彼女にそれを言うことができる人間はクラスにいなかったのだ。

「それで凹んでるときにね、真実が一緒に帰ろう、って。帰り道、私は彼女に文句を言ってやろうと思ってた。でも、それを真実はわかってたのね。私が何か言う前に、ひと言、『ごめんね』って。それで、何も言えなくなっちゃった。そしたら、『亜紀子がいるから、私はいい子ちゃんでいられる。ありがとう。でも本当は皆、そんな私と心から仲良くなれるなんて思ってないのも、わかってるんだ。だから、真実は、私と本当の友達でいてくれるかな』って。ごめん、思い出したら泣けてきちゃった――」

「いや、構わない」

 そんなことしか言うことができなかった。あの義堂が、悩んでいたのか。いきなり想像とは違う姿を見せつけられて、信藤は困惑していた。確かに、いい子だ。しかしそんな彼女にも、脆さがあったということだ。

 そんな像は、正直いらなかった。

 信藤の求めている義堂真実の〝真実(しんじつ)〟は、それではない。

「ありがとう」

「え」

 もういいの、といった様子の仁科を放って、信藤は席を後にしていた。

そもそも、義堂と仁科は合っている、とは言い難かった。見る限り仲が良かった、というのは、良く一緒にいるくらいだった、ということに過ぎない。仁科のために、義堂はそんなことを言ったのだろう。義堂の優しさを、仁科は純粋に信じてしまったのだ。

 もっと、ちゃんと義堂を知っている人間を捜さなければならない。せめて話しやすい人間を、と思ったのが失敗だった。

 自分が苦手な人種でも、この際仕方が無い。このクラスでひと際目立つグループへ、信藤は視線を向けた。

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