第一章 信藤語
第一話 同窓生
①-1
「さようなら」
大切な人が、クリスマスに、死んだ。自殺だった。遺書には親への感謝とともにその言葉と署名しか残されておらず、詳しい原因は不明だ。彼女が、何故。
義堂真実(まみ)。いつも明るく、クラスを、いや、何より信藤を導いてくれる存在だった。
クラスの片隅で沈んでいる信藤を、いつも日の当たる所に連れて行ってくれた。
彼女のことが、好きだった。
そんな彼女の葬式で、信じられない言葉を信藤は聞いた。
――やっぱりね
――あんな陰鬱な子、いなくなっても誰も哀しまないんじゃない
中学の頃の友人だろうか。もしかして義堂は、高校デビューだったのかもしれない。それくらいなら、まだやり過ごせた。
――正直言うと、ほっとしてるよ。
――俺も。あいつがいると、怖くて仕方なかった。
――どっかの不良と付き合ってたらしいじゃん。自殺じゃなくて、別れ話の縺れで殺されたんじゃないの?
胸倉を掴んで問い質したかった。しかし、信藤にそんなことはできない。暗い目で突然振り向いて、そいつらを気味悪がらせることくらいが関の山だった。
――あの子、馬鹿だったしね。悪い人に騙されたんじゃない?
――ウリもしてたんだっけ? 何かトラブルなのかもね。
あんな聡明で、清廉潔白を絵に描いたような義堂が?
話している人間は、それぞれが別のグループで、関わりは無いようだった。
義堂が顔が広かっただろうことは、想像に難くない。だが、それぞれで違う顔を見せていた、ということだろうか。
信じられなかった。
信藤が知る人間の中で、最も裏表が無い人物が、義堂真実だった。だから、信用できたし、信頼したし、好きになったのだ。
つまり、そこから類推される答えは、彼女を嫌う人物が、根も葉もない噂を流して、それを信じて本当のように語る人間が多数いる、ということだった。
彼女を侮辱する人間たちが、許せなかった。
こいつらのせいで、本当の彼女が穢されていく。
だから、〝本当の彼女〟を調べて、発表することに決めた。
本当の彼女は、驚くほど魅力的だ。容姿も美しい。彼女のことを纏めれば、そして死んだ理由を調べれば、きっと反響も大きく、世の中に事件として受け止められるだろう。そして、噂は掻き消え、彼女の〝本当の姿〟が受け入れられるのだ。途中で、噂を流した人物を突き止め、糾弾もできるだろう。
そう決意し、信藤は彼女の足跡を追っていくことにした。
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